美人度は政治家にとって必要か? 政策よりも資質と裏の顔を表す! グラビアとしての政治家公式写真
――今月の企画では、モデルやアイドルのグラビア写真について語るが、彼女たちと同じか、もしくはそれ以上に写真が人目に触れ、その写りの良し悪しが仕事を左右する職業がある(と、思う)。その職業とは……すなわち、政治家ではなかろうか?
先の知事選では、自身のカラーである緑に身を包み、圧勝した小池百合子。
グラビア写真について改めて考えてみれば、選挙中のみならず、定期的に街中にバストアップの写真が大々的に掲示され、不特定多数、たくさんの人に凝視される職業は、もしかすると政治家以外、ないかもしれない。そして、有権者が投票する際には、大なり小なりその写真の印象が判断の材料になってしまう。ことに女性の場合は、「美人かどうか」が、決め手のひとつになってしまうのは、“美人すぎる”などともてはやされる市議がいることを見ても疑いはないだろう。
そこで本稿では、いささか強引なこじつけではあるが、「グラビアの視点から検証する女性政治家写真」をテーマに、彼女たちの選挙ポスターや公式ホームページの写真を1枚1枚俎上に載せ、考察してみたい。
まず前提として、政治家の写真をグラビアとして鑑賞していくとどんなことが明らかになるだろうか? 美人であることは女性政治家にとって有利に働くのだろうか? 某政治記者はこのように話す。
「美人であることは、確かに政治家にとって有利な部分は大きい。国会議員でもそうですが、特に都市部の区・市議選などになると、きちんと政策を読み込んで投票先を決める人なんてごく一部。大部分の有権者は選挙当日にポスターとか選挙公報を見て投票する人を決める浮動層が大半です。だから、有権者にとって“キャッチー”な人が選挙に勝ちやすく、結局一番わかりやすいのは『顔』。そしてそれを写している『写真』なんですよね。なんだかんだいっても日本は成熟社会でそれなりに豊かですし、結果として政治にも切迫したものを求めていないとなると、必然的に顔で選ぶという要素が大きくなるのは、致し方のないところでしょう」
「結局のところ、写真が決め手」という実情は、実際は当の女性政治家のほうもわかっているらしい。この政治記者はこんなエピソードを明かしてくれた。
「ある女性政治家を取材したときのことですが、取材後に『ちゃんとチェックさせてくれるんでしょうね』と言うんです。『新聞ですから、原稿チェックはできないんですよ』と言ったら、『違うわよ、写真チェックよ!』と言われたんです(苦笑)。全カット紙焼きにして見せろって言うんですよ。話の内容よりもそこか!ってびっくりしましたけど。でもこれは女性に限ったことではないのですが、政治家は皆さん非常に写真写りを気にしていますよね。やっぱりそれが支持者の人気獲得に直結していることをわかっているんです」
ただ、それではきれいに写っているほどいいのか、というとそれは少し違うのではないか、とこの政治記者は続ける。
「特に選挙ポスターの場合は、顔と名前を一致させるための意味合いがある。きれいかどうかよりも、むしろ『写真をひと目見ただけで、その人だとわかる』ということが大事なんですね。
要は、写真1枚でその人だとわからせ、最終的に投票してもらうこと、議員がどんな主義主張をしているのか知らしめる意図がある。女性議員が全般的に原色のスーツを着ていることが多いのも、目立つことが自分の仕事だということをわかっているのでしょう」
女性政治家たち自らも意識している、選挙ポスターなどの公式写真。その影響力と重要度は、まさにグラビア写真の世界と変わりないのではないか。
入念な準備のもとに撮影される公式写真
政治家にとって当落をも左右する公式写真。当然、女性政治家たちもかなりのエネルギーを注いで写真映りを良くする努力をしているはずだ。さまざまな媒体で活動するあるカメラマンは、今回例にあげた写真を見た上で、次のように述べる。
「政治家はある程度年齢の高い人が多いわけだから、あえて若々しさを強調する撮り方が一般的。さらに安心感があり、かつ溌剌とした印象を与えるようにする。よくあるガッツポーズなんかはその典型なわけです。さらに女性政治家ともなると、当然美人に見せることは必須。そのためには、まずメイクや髪型で印象を良くしていくわけですが、今は写真の修整技術が進歩しているから、シワを消したり、肌ツヤを良くしたりする処理も行っているはず」
何回も選挙に出ている女性政治家は、当然どう撮られればいいか研究を重ねているだろうし、贔屓にしているカメラマンもいるだろう。一説では、某大御所カメラマンに選挙ポスターを撮影してもらうと当選する……という、ジンクスも存在するとか。無論、どのように撮影するかも大体パターン化されてくるはずだとこのカメラマンは話す。
「有名になればなるほど、撮影を管理する仲介業者がいるはず。プロのカメラマンはその人をどう撮れば一番きれいに見えるかわかっているから、顔の向きやどっちの肩を前に出すかとか、大体決まっているでしょう。もちろん最低でも正面、右、左からとそれぞれ何パターンか撮影して、どれを使うかは議論するだろうけど、結局いつもと同じ角度に落ち着く、という感じだと思います」
まさに、政治家の公式写真は、グラビアアイドルの水着写真にも匹敵するほど、入念な準備と作戦を経て撮られているのだ。
就職先としての議員ポスターは履歴書写真?
さりとて、政治家が美人度で判断されてしまう原因は、政治家のほうにもあるのではないかと分析するのは、前出の政治記者だ。なぜなら、ある年齢以上の女性にとって、議員というのが「都合のいい就職先」になってしまっている現実があると、この政治記者は見る。そのような政治家にとっては、政策の中身よりも見た目で判断してもらったほうが、むしろ好都合というわけだ。その政治記者は続ける。
「かつて小泉チルドレンとして鳴り物入りで政界デビューを果たした杉村太蔵本人も語っていましたが、彼らは70年代後半生まれの就職氷河期世代、いわゆる“ロスジェネ”世代。一流大学を出ても希望通りの就職はできず、いろいろな職業を渡り歩いたのちに、結局議員にたどりついたという人はいる。グラビアアイドルや放送作家、ライターをしていた塩村文夏が典型的な気がします」
こちらの記事に掲載している政治家の紹介欄にもコメントしているアイドル研究家の北川昌弘氏は、女子アナから政治家への転身も、同じような文脈で読み解けそうだと話す。
「丸川珠代さんにもその臭いを感じますが、(解釈にもよるが)女子アナは30歳定年説というものがある。要は30歳を過ぎると、若手が台頭し、番組や局での立ち位置も厳しいものになる。その時期に政治家に転身するのもひとつの手だということを、みんな気づき始めたのではないかな。局の女子アナ出身と限定すれば、国会議員に転身した人は思いの外、少ないかもしれないし、丸川さんが政界に入ったのは30歳を超えていたけど、彼女の場合は政治家としての変な野心もなさそうで、その点が安倍首相としても内閣に入れるのにちょうどよかったのでは」
前出の政治記者は、ある意味では女子アナ出身の政治家も重宝されるのではと続ける。
「議員の仕事って、国民に見える部分でいうと、会見とか取材で官僚のつくったペーパーをきちんと読む、ということが実は大半だったりするんですよ。そういう意味では、原稿を読み上げるのがうまい、というのも政治家としては大事な能力ですよね(苦笑)。まあ国会答弁で野党議員とやり合いになったりすると、それだけでは通用しなくなってくるんですが……」
国会議員が安心できる就職先として機能しているとすれば、選挙ポスターは、さしずめ履歴書に貼る証明写真の意味を含んでいる……とはいいすぎだろうか?
さて、政治家にとって、本質以上に写真写りが重要になってくる理由には、まださまざまな事情がありそうだ。それにしても、政治家が見た目で判断されている現状は、果たして正しいのだろうか。前出のカメラマンは、ポスターだけを見て投票する有権者が多数いる現状は嘆かわしいとしながらも、写真を見ただけでわかる本質も確かにあると話す。
「蓮舫や小池百合子の写真を見ていると、堂々としていて、自信があるのが伝わってくる。特に小池の写真なんて、目を見ていると、本当に自分が見つめられているような気がしてしまう。これまでさまざまな場所で活躍し、培ってきた度胸というのが、この2人は突出している気がします。それに比べるとまだ当選回数が少なかったり、稲田朋美みたいに突然抜擢されたけど内実が伴っていない人は、写真を見ていてもぎごちない感じがするんですよ。そういう意味では、選挙ポスターだけでも政治家の資質を判断できる部分は確かにあるんでしょうね」(前出・カメラマン)
政治家としての人生を決定づける公式写真。選挙ポスターこそは、やはり究極のグラビア写真といえるのかもしれない。
(取材・文/里中高志)