「パンドラ映画館」の記事一覧(6 / 15ページ)

これはホラー? それとも極上のファンタジー? 男の潜在的欲望の扉を叩く『ノック・ノック』

<p> どんな男も簡単に墜ちてしまう魔法の言葉がある。密室空間で若い女性が甘く囁く「ここだけの秘密よ」というひと言だ。相手が秘密を守る確約はまるでないのに、男はあっさりとズボンとパンツを下ろしてしまう。男はどうしようもなく秘密という言葉に弱く、そして女はそんな秘密は守ろうとしない。かくして快楽と背中合わせの惨劇が訪れ、平和な家庭は次々と崩壊していく。キアヌ・リーブス主演のエロチックサスペンス『ノック・ノック』は、男なら誰もが隠し持っている潜在的欲望の扉をいとも簡単に開けてしまう。男が夢見る極上のファンタジーであり、同時に背筋が凍る現実味たっぷりなホラーでもある。</p>

叶わなかった未来と愛すべき日常生活との交差点。 阪本順治監督×藤山直美の奇妙なコメディ『団地』

<p>『ドラえもん』やSF映画を観て、子どもの頃は21世紀になれば月や火星に自由に行けるようになっているんだろう、科学が進歩して日常生活の煩わしさから解放されるようになるんだろうなとバラ色の未来社会を夢想していた。でも、実際に大人になってみると、子どもの頃に思い描いていた未来像とずいぶん違うことに愕然とする。その一方、高度経済成長期にはモダンなライフスタイルとして憧れの存在だった集合住宅(団地)は、時代の流れと共に色褪せたものへと変わっていった。叶わなかった未来と経年劣化が目立つようになったかつての憧れがクロスする、奇妙な感覚のコメディ映画。それが阪本順治監督の新作『団地』だ。</p>

<p> 本作の主人公であるヒナ子(藤山直美)と清治(岸部一徳)の夫婦は、以前は漢方薬局を営んでいた。でも、半年前にお店を畳み、郊外の団地へと引っ越してきた。団地全体から昭和な雰囲気が漂い、子どもがいないヒナ子たち夫婦が慎ましく暮らすには手頃な物件だった。落ち着いたシニアライフを送ろうとしていたヒナ子たちだったが、毎日いろんな人たちが訪ねてくる。自治会長の正三(石橋蓮司)はお調子者だが、その妻・君子(大楠道代)は夫が浮気していると愚痴をこぼしに来る。久々に現われ、「五分刈りです」とおかしな挨拶をする真城(斎藤工)は漢方薬局の常連客だった。健康そうな見た目とは裏腹に虚弱体質らしく、今も夫婦が作る漢方薬を欲しがっている。ヒナ子は清治のための食事の準備に加え、スーパーマーケットでパートタイマーとして働き、なんだかんだと忙しい。</p>

マスコミから袋叩きにされた渦中の男を密着取材!佐村河内氏主演の純愛ドキュメンタリー『FAKE』

<p> テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ネットが伝える情報はどこまで正しいのか。事実を歪めている箇所はないか、どの程度の歪みなら許容できるのか。それらを見極める能力はメディアリテラシーと呼ばれ、情報が溢れる現代社会においてはとても重要なものとされている。また、判断を下すのは個人に委ねられているので、与えられた情報をどう受け止めるかは千差万別となる。“ゴーストライター”騒ぎで話題となった佐村河内守氏に長期密着取材したドキュメンタリー映画『FAKE』は、観客ひとり一人のメディアリテラシー能力を激しく問う作品だ。テレビのワイドショーや週刊誌の記事でしか触れることができなかった佐村河内氏が、カメラに向かって心情を告白する。彼の言葉はどこまで信憑性があるのかを確かめるため、観客はスクリーンに映し出された彼の表情や周囲の反応を凝視することになる。<br />
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清原被告にぜひ観てほしいドキュメンタリー映画! マイケル・ムーア監督作『世界侵略のススメ』

<p> アポなし突撃取材で有名になったマイケル・ムーア監督の6年ぶりの新作ドキュメンタリー『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』は、多くの人にすすめたい映画だ。例えば覚せい剤所持で逮捕された清原被告は、ポルトガルではどんな薬物使用も罪に問われないことをこの映画で知ったら「栃木じゃなくてポルトガルに行っとけばよかった」と悔やむかもしれない。秋葉原殺傷事件を起こした加藤死刑囚は、ノルウェーには死刑制度がなく、しかも多くの重犯罪者たちに明るく優雅な一軒家が与えられていることに驚くかもしれない。世界は想像以上に広く、様々な価値観を持って暮らす人々がいて、米国や日本とは大きく異なる社会があることを、マイケル・ムーアはふんだんにジョークを交えて伝えている。</p>

記憶は思い出となり、やがて物語へ昇華していく。園子温監督が本当に描きたかった『ひそひそ星』

<p> 園子温監督って、人気なんでしょ? トレンドワードをチェックする感覚で『リアル鬼ごっこ』や『映画 みんな!エスパーだよ!』を劇場まで観に行った人はア然ボー然としたことだろう。会員制のバーに間違って入ってしまったような居心地の悪さを覚えたに違いない。綾野剛、山田孝之らが出演した『新宿スワン』は興行的に成功したが、原作つきで脚本も書いてないこともあり、園監督的には自分の作品という意識はないらしい。『ラブ&ピース』も含めて4本もの新作が2015年には劇場公開されたが、初めて園作品に触れる“一見さん”をドーンと突き放すような内容のものが続いた。『愛のむきだし』(09)や『冷たい熱帯魚』(11)でブレイクしてから、不遇時代に溜め込んでいたエネルギーを爆発させるかのように作品を量産し、さらにバンド演奏、小説執筆、芸人宣言と様々な分野での露出が続いた園監督の分裂症的な時期は収束に向かい、新しいステージでの活動が始まる。園監督の新しいスタートを飾るのが、シオンプロダクション第1回作品『ひそひそ星』である。<br />
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“霊性の震災学”と共鳴する樹海奇譚『追憶の森』自殺の名所でマシュー・マコノヒーは何を見た?

<p> タクシー運転手は不思議に思った。初夏にもかかわらず、女性客は厚手の冬服を着ていたからだ。行き先を尋ねると、女性客は被災の激しかった地名を告げた。運転手が「あそこはもう更地ですよ」と答えると、女性客は「私は死んだのですか?」と呟き、その姿を消した。今年1月に刊行されて話題を呼んだ『呼び覚まされる霊性の震災学』(新曜社)では、被災地のタクシー運転手たちが震災後に不思議な体験をしていること、また運転手たちはこの幽霊現象で出会ったお客たちに敬意を払っていることを伝えている。東北学院大学のゼミ生たちが『霊性の震災学』の調査をしていた頃、米国でも死生観をテーマにした一本の映画の製作が進んでいた。ガス・ヴァン・サント監督の『追憶の森』(原題『The Sea of Trees』)がそれだ。『追憶の森』では心に傷を負う米国人が、日本で不思議な体験をすることになる。『霊性の震災学』に通じるものを感じさせる。<br />
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テレビ中継されたのは戦争の真実か残酷ショーか アイヒマン本人が出演する『アイヒマン・ショー』

<p> 600万人が亡くなったとされるホロコーストで、いかに効率よくユダヤ人を強制収容所に移送できるかを計画したナチスドイツの戦争犯罪者アドルフ・アイヒマン。連合国側に顔が知られていなかったため、戦後は南米アルゼンチンで逃亡生活を送っていたアイヒマンだが、イスラエルの諜報機関モサドに見つかり、1960年にイスラエルへ強制連行。翌年4月から12月までイスラエルの首都エルサレムにて、“アイヒマン裁判”が開かれた。ユダヤ人虐殺を指揮したアイヒマンをユダヤ人国家が裁くということ、また戦時中の犯罪を戦後に作られたイスラエルの法律で裁くなど、様々な問題を抱えての法廷だった。</p>

生きづらさを感じる若者たちへの新しい福音か? 現代社会の黙示録『アイアムアヒーロー』『太陽』

<p> 行くところまで行きついた社会格差は革命を引き起こし、資本主義経済はやがて共産主義経済へと移行する。19世紀の経済学者カール・マルクスが提唱した“史的唯物観”だが、現状の資本主義体制が解体するのはもうしばらく先で、ひと握りの資本家への富の集中が当分は続きそうだ。いつまで待っても起きない社会革命の代わりに、若者たちの間でもてはやされているのが“ゾンビもの”と呼ばれるジャンルである。高度に発展した資本主義社会はゾンビ化した群衆たちの暴動によって破壊され、経済格差のないゾンビ社会へと向かっていく。現代社会に生きづらさを感じている若者たちを魅了する、崩壊のカタルシスがゾンビ映画には隠されている。<br />
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神様に祈りを捧げる教会は“悪魔の巣窟”だった!? 『スポットライト』が照らし出した平穏社会の暗部

<p> カトリック教会は子どもたちを性的虐待する変態神父たちの温床であり、教会はその事実を組織ぐるみで隠蔽してきた。世界で12億人もの信者数を誇るカトリック教会の衝撃的な内幕を暴いた地方新聞の記者たちの奔走を描いたのが、実録ドラマ『スポットライト 世紀のスクープ』だ。多くの予想に反し、今年のアカデミー賞作品賞と脚本賞を獲得し、カトリック教会の本部であるバチカンのローマ法王庁を今も大きく揺さぶっている。</p>

<p> この物語は米国の古い街・ボストンにひとりのアウトサイダーが赴任してきたことから動き始める。2001年7月、ボストン・グローブ紙はインターネットの普及で売り上げ部数が低迷し、そのテコ入れとして親会社から新しい編集局長のマーティ(リーヴ・シュレイバー)が就任する。マーティはまず「読者がもっと読みたくなる紙面にしよう」と社員に求める。そんな努力はずっとやってきたと同紙に勤めるベテラン記者たちはうんざり顔だが、マーティは容赦なく改革を断行する。ユダヤ人であり、地元とのしがらみがないマーティの目に止まったのは、地元カトリック教会のジョン・ゲーガン神父が子どもたちに悪戯をした疑いで裁判沙汰になったスキャンダル。ボストン・グローブ紙は小さな囲み記事で扱っていたが、マーティは「事件の真相をさらに掘り下げろ」と命じる。「すでに記事にした」「うちの読者の半分はカトリック信者だぞ」という反対の声が上がる一方、特ダネ班“スポットライト”のデスク、ロビー(マイケル・キートン)がこの事件を担当することになる。</p>

3.11に対するピンク映画からの回答。声を失った男の悲痛な叫び『夢の女』『バット・オンリー・ラヴ』

<p> 多くの犠牲者を出した東日本大震災だが、あの震災によって逆に社会復帰を果たした人もいる。10代のときに統合失調症と診断された男性は、40年にわたって地元・福島の精神科病院での入院生活を余儀なくされた。しかし、福島第一原発事故によって原発近くにあった入院先から他の病院に避難した際、すでに病気は完治していることが判明。男性は60歳になって、ようやく自分の人生を取り戻すことになった。あまりにも皮肉めいた小説のようだが、これは『ハートネットTV』(NHK教育)や『クローズアップ現代』(NHK総合)でも報道された実話。このウソのような本当の話を映画化したのが、かつてピンク映画界で活躍した佐野和宏主演作『夢の女 ユメノヒト』だ。<br />
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