『笑っていいとも!』終了で迎えたテレビの大きな転換期 カギを握る「タレント」は?
『タモリ』(Sony Music Direct)
2014年のテレビを振り返ろうとするなら、フジテレビ『笑っていいとも!』の終了に触れないわけにはいかないだろう。日本に住むすべての人々にとって、そこにあることが当たり前の風景は、2014年3月をもって失われた。テレビ番組とは終わることを宿命付けられたものだと頭では理解していても、一つの時代の喪失を目の当たりにするというのはなかなかに寂しいものだ。しかしだからといって、もちろん「テレビ」そのものが終わってしまったわけではない。
『笑っていいとも!』の最後のセレモニーは、絶対に共演はあり得ないとされていた芸人たちを一つのフレームに収めた。あって当たり前の風景が失われたのならば、あり得ない風景を見ることができるかもしれない。喪失とは、次の誕生への第一歩である。『笑っていいとも!』のセレモニーは最後を告げる葬式であり、同時に新たな時代の誕生を呼ぶ祝祭でもあったはずだ。テレビは新しくなる。新しくならなくてはいけない、そういう時期だ。そんな2014年。テレビで何が起こっていたのか、タレントという視点から振り返ってみたい。
<1>ベテラン勢が見せた「強さ」
『笑っていいとも』が終了した今年、タモリは新番組『ヨルタモリ』(フジテレビ系)をスタートさせた。年齢も年齢であり、大人向けのトーク番組あたりに落ち着くのではという周囲の予想は、いい意味で完全に覆された。タイトルにあるように、まさしく「夜のタモリ」全開のエキセントリックに振り切れたアナーキーな番組。なんというか、ものが違う。第一線で活躍し続けたタレントの「強さ」を、あらためて認識させられたのだった。
また今年は、TBS『水曜日のダウンタウン』が開始された記念すべき年でもある。演出の藤井健太郎氏は1980年生まれであり、いわばダウンタウン直撃世代といえるが、松本人志や浜田雅功に媚びることなく、変に恐れることなく、ただただまっすぐに面白いVTRをぶつけてくる。それを見て笑うダウンタウンの笑顔が、また愛おしい。それでいてこの番組は、小さく閉じることなく世間に向かっている。情報性がないと見てもらえないだとか、このタレントだと数字が取れないだとか、そんな下らない意見には耳を貸さず、自分たちが面白いと思うものは視聴者も面白いと思うはずだという信念。そして、その信念に見合った技術としつこさ。今のダウンタウンだからこそできる出演者とスタッフの化学反応が、この番組には確かにある。
そしてとんねるずは、フジテレビ『みなさんのおかげでした』で新たな秀逸な企画を量産し、ハライチの澤部佑ではなく岩井勇気に「チンピラ」という視点を与えるなど、とんねるずにしかできないやり方で多くの種をまいている。内村光良はNHK『LIFE!』にコントの場を求め、南原清隆の日本テレビ『ヒルナンデス!』は一見ほのぼのしたお昼の情報番組という体裁を取りながらも、実はそのVTRは非常にレベルの高いバラエティをやり続けている。いずれをとっても、今年、ベテラン勢の「強さ」が目立った。それはとても素晴らしいことだが、この牙城を崩す若きタレントが求められているというのも、また事実ではあるだろう。
<2>「本業アリ」タレントのブレーク
ふなっしー。ヒロミ。坂上忍。織田信成。いずれも今年ブレークを果たした、あるいは昨年のブレークからさらに飛躍を果たしたタレントだが、彼らには共通点がある。それは「本業がある」という点だ。ふなっしーの本業はあくまでもゆるキャラであり、タレント業はいわば余技であるといってもいい。ヒロミは実業家としての顔を持ち、坂上忍は役者であり、織田信成はフィギュアスケーターだ。タレント業がなくてもおそらく生活していけるであろう人々が、今年ブレークを果たした。
ここ数年でいわゆる「ブレーク」を果たしてきたのは、いずれも芸人であった。特に持ちギャグやフレーズを持った芸人である。スギちゃんしかり、レイザーラモンHGしかり、エド・はるみしかり。今年も日本エレキテル連合というブレーク芸人は誕生したが、かつてと比べてその数は明らかに減っている。これはお笑いブームがいったん終わりを告げたという事実にも由来するが、視聴者や制作サイドが、いわゆる「一発屋」に辟易しているということもあるだろう。むしろ現在の「一発屋」の座は、佐村河内守氏や、小保方晴子氏や、号泣県議が担っている。これ以上の「一発屋」は、もはや必要ないということだ。
だからこそ前述したブレークタレントは、「本業」を持っていることが重要である。本業がほかにある以上、「一発屋」になることはない。テレビ以外の場所が彼らにはあるのだから。そして社会全体がどうかしてしまっている今、この傾向は今後も続くだろう。テレビしか場所を持たないタレントは、なかなか世に出るのが難しい時代が来ているのではないだろうか。
<3>「芸人」は新たな地平を目指す
2014年12月現在、いわゆる「ネタ番組」は日本のテレビには存在していない。数年前のネタブームがウソのようだが、今年は最後の砦ともいえるNHK『オンバト+』が3月をもって終了。いよいよ若手芸人が光を浴びる場所はなくなっている。加えて、前述したように上が「強い」あまり、中堅芸人の高年齢化も進んでいる。どこを見渡しても八方ふさがりの状況で、「芸人」は新たな地平を目指すことになった。
劇団ひとりの『青天の霹靂』映画監督デビューや、アンジャッシュ・渡部のグルメタレントへの転換などもその一つだが、最も象徴的だったのはバカリズム脚本によるフジテレビのドラマ『素敵な選TAXI』が挙げられるだろう。深夜のチャレンジや単発ものではなく、夜10時台の連続ドラマの脚本である。そしてバカリズムはそのハードルを軽やかに飛び越え、脚本家としても一流であることを証明した。決して強いキャストが集まっているわけでもなく、時にはほぼ丸々タクシーの中だけで完結する回もあったが、視聴率的にも大健闘。面白い脚本があればドラマは見られる、という当たり前の事実を知らしめた。
もちろん、そんなことができるような才気と意欲あふれる「芸人」は多くはないだろうが、しかし事実として「芸人」の数に対して席が少なすぎるというのは確かだ。しかしこれは、ある意味ではチャンスでもあるだろう。席がなければ、席を作ればいい。ライブシーンを見れば、漫才もコントもネタの質は充実している。テレビの枠を飛び越えて「芸人」の才能が求められる場所をどうやって作るのかが、これからの「芸人」の課題になるだろう。
<総括>
『笑っていいとも!』終了という事件は、将来から振り返っても大きな転換点だったと語られることだろう。さらにいえば、視聴環境の変化やネットにおける動画配信サービスの充実、ならびにデバイス環境も大きく変わりつつある。コンテンツだけでなく、テレビそのものが大きく変わることを要請されていて、実際に大きく変わりつつある。今後もテレビの試行錯誤が続くことは間違いないが、それでも新しい息吹は確かにある。新しいテレビの時代が、もうすぐそこまで来ている。2015年からのテレビは、果たしてどんな風景を見せてくれるのだろうか? いち視聴者として、楽しみでならない。
(文=相沢直)
●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは @aizawaaa