【徹底研究】ベッキーをオトしたゲスの極み乙女。だけじゃない! “前髪重い系バンド”はなぜモテるのか!?
――“ベッキー騒動”でやおら世間の注目を集めているゲスの極み乙女。なるバンド。そういえば最近、似たイメージのバンド、多くないだろうか? そこで本企画では、そっち系のバンドを「前髪重い系バンド」と勝手に命名。そのスリートップとして、くだんのゲスの極み乙女。、そしてサカナクション、SEKAI NO OWARIを措定し、大人気の彼らの、その“モテ”の秘密に迫る!
多くの雑誌の表紙を飾る三大“前髪重い系”バンドたち。バンド全員でのカットが多いゲス極やセカオワに比べ、サカナクションは単独カットが多い。
2016年1月7日発売の「週刊文春」報道に端を発する、タレント・ベッキーと人気バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル&ギター・川谷絵音の不倫報道。その記事──「ベッキー31歳禁断愛 お相手は紅白初出場歌手」──が掲載された同誌の発売前日、急遽記者会見を開いて謝罪したベッキーだが、その翌々週21日発売の「週刊文春」には、会見前の赤裸々なLINEの内容が再び掲載。「不倫でも略奪でもない」「オフィシャルになるだけ」など、謝罪どころか開き直りにも見えるやり取りが暴露され、結果的に彼女は、CMやレギュラー番組をすべて降板、長期休業を余儀なくされるという異常事態に陥った。
ミュージシャンがモテるのは、今も昔も変わらない。噂話の類ならば星の数ほどあり、実際結婚まで至った最近の例でも、りょうとブラフマンのTOSHI-LOW、長谷川京子とポルノグラフィティの新藤晴一、蛯原友里とリップスライムのILMARIなど、大物女性芸能人と男性ミュージシャンのカップリングは、特に珍しいことではない。
しかし、今回の一連の騒動で、決して音楽に詳しくはない一般人をも驚かせた要因のひとつは、相手のバンドマンが既婚者だったこと──ではなく、その「見た目」ではなかっただろうか? 好みは別として、ベッキーはまごうことなき美人ハーフタレントである。対する川谷は、お世辞にもイケメンとは言いがたい、ナヨっとした風貌……。かつてのバンドマンのイメージとは大きく異なるそのルックス。昨今の若者事情はよくわからないけど、これがイマドキのモテるバンドマン像なの? そもそも「ゲスの極み乙女。」(以下、ゲス極)というバンド名はアリなの? そんな疑問が頭の中を駆け巡った方も多かったのではなかろうか。
そこで音楽業界を見渡してみれば、確かにここ数年、川谷と似た風貌のボーカリストをフロントマンに据え、全体として似た雰囲気を醸し出しているバンドが少なくはないことに気づく。ベッキーと川谷の愛のキューピッドとも噂されるラッドウィンプスの野田洋次郎、本誌14年9月号「人気“厨二病”バンド セカオワとは何者か?」でも触れたSEKAI NO OWARI(以下、セカオワ)のFukase、5人組バンド、サカナクションの山口一郎、4人組バンドKANA-BOONの谷口鮪、4人組バンド、クリープハイプの尾崎世界観……。
彼らを眺めていて、ふと気づくことがある。それは、こちら側からフロントマンの目が視認できない、もしくは視認しにくいこと……つまり、前髪が長いのである。これにはきっと、意味があるに違いない。
というわけで本稿では、ベッキーをオトした川谷率いるゲス極をはじめとする一群のバンドを「前髪重い系」と勝手に命名し、彼らの音楽性、その人気の秘密、そしてどうしてベッキーのような高好感度のタレントと付き合うかことができたのかについてまで、(半ば強引に)分析を加えてみたい、と思うのである。
イカついことがイケていた90年代
たとえば90年代、人気のロックバンドといえば、ブランキージェットシティやミッシェルガンエレファント、イエローモンキーなどが、すぐに思い浮かぶ。長身痩躯の体型と、不良性をまとった雰囲気。そして何よりも、そこから立ちのぼる男の“色気”のようなもの。そんなロックバンドのボーカルがモテるのは、男の目からもある意味納得のいくところである。その背景には、「ゼロ年代以降の音楽シーンにおける、ある大きな変化があった」と語るのは、長らくバンドシーンをウォッチし続けている音楽評論家のA氏だ。
「90年代は、スタイルとしてのカッコよさを突き詰めているロックバンドが人気でした。ブランキーやミッシェル、イエモンなどが、その典型です。その一方で、グレイやラルク アン シエル、ルナシーなど、ヴィジュアル系と呼ばれていた一連のバンドも、確かに人気があった。まさに“ヴィジュアル系”という言葉が象徴的なように、それらのバンドには、誰が見ても一発でわかる見た目の美があり、それが何よりの魅力だったのです」
反骨の精神や不良性など、いかにもロック的な「カッコよさ」を持ったバンドマン。あるいは、化粧をした美しきヴィジュアル系のバンドマン。確かに90年代は、ヴィジュアルからして明らかにスタイリッシュなミュージシャンたちが邦楽ロックの中心にいたし、女性人気も高かったのである。
ところが、ゼロ年代に入ったあたりから、それらのバンドとは異なる風体を持ったバンドが続々と音楽シーンに現れるようになる。そのひとつの分水嶺となったのが、バンプ・オブ・チキン(以下、バンプ)であるとA氏は語る。00年にメジャーデビューし、01年のシングル「天体観測」の大ヒットで一気にお茶の間レベルで認知されるようになったバンプ。90年代に人気を博したロックバンドたちが、ある種特徴的な「外見」を持ったスタイリッシュなロックバンドであったのに対し、彼らは外見以上にその「内面」──特に、その繊細な内面性を表現した「歌詞」に大きな特徴があった。そう語るのは、インディーズを中心としたCDショップで働くB氏だ。
「彼らは、スタイリッシュなもの──クラスでも目立っていたような人たちとは、真逆の場所から出てきたバンドです。あくまでも等身大の目線で、生身の心情を吐露するような歌詞。『痛みや切なさを胸に、それでも前へ進もうとする意思』といったものが、バンプの歌詞には込められていたわけです」
かつてのロックバンドとは異なり、若者たちの内面を繊細な歌詞で描き出してみせたバンプ。インディーズ時代に彼らがリリースしたアルバムが『THE LIVING DEAD』(生ける屍)と名付けられていたのは、なんとも象徴的な話である。わかりやすい意味での「ロックスター」ではないけれど、それでも鳴らせる音楽がある。それでも生きる意味がある──。そんな彼らのメッセージは、当時悩める思春期を迎えていた少年少女のハートを見事に射抜いたのだった。AKB48の渡辺麻友、元SKE48の松井玲奈など、自身が芸能界に入る以前からバンプを愛聴していたと語る女性タレントは数多い。そんな夢見る女子たちの精神的支柱となったのが、バンプだったのである。
そのバンプを筆頭に、アートスクール、シロップ16gなど、内省的な歌詞を特徴とする、下北沢発のロックバンドが人気だったゼロ年代初頭。そして、彼らの大きな特徴として挙げられるのが、ゲス極・川谷にも通じる例のアレ──前髪の重さなのだ。彼らはいずれも前髪を長く伸ばし、眉毛はもちろん、目元すら見えない髪型をしている。それは単なる偶然なのか? あるいはそこに何がしかの意味や効果があったのか? タレントやミュージシャンなどのヘアメイクを長らく担当してきたベテランヘアメイクであるC氏は言う。
「前髪を長くして眉を隠すと、男だか女だかわからない、中性的な感じが出るんですよね。あと、眉毛が見えないので、表情がわかりにくくなる。ヘアメイクとしての経験上、シャイな人ほど、前髪の長さにこだわる傾向があるように思いますね」
シャイな自分を守るための、“武装”としての前髪! 彼らに続いたラッドウィンプスもこの系譜に連なるバンドのひとつだが、彼ら新世紀のロックバンドたちは、いずれもテレビに出ることを極力抑え、ライブを中心にファンとの濃密な関係を取り結んでいたことも、忘れてはならない特徴のひとつだ。誰もが知る「外見」のわかりやすいイメージよりも、私しか知らない彼の「内面性」。そのひとつの象徴として、彼らの前髪はあったのである。
“男”ではありたくない 意思表示としての前髪
「前髪重い系」のバンドが優勢になったバンドシーンに、やがてある変化が訪れる。冒頭に掲げた三大“前髪重い系バンド”のひとつ、サカナクションの登場だ。07年にメジャーデビューし、10年に発表したシングル「アルクアラウンド」、アルバム『kikUUiki』がいずれもオリコン初登場3位を記録、13年にはNHK紅白歌合戦に出場するなど、お茶の間レベルで大きな存在感を示すようになったサカナクション。そのフロントマンであるボーカル&ギター・山口一郎の前髪もまた、確かに重めだし、〈アイデンティティがない〉と歌う「アイデンティティ」という曲が典型であるように、その歌詞世界も内省的なものではあった。しかし、彼らはそれ以前のバンドと、決定的に異なっていたと前出のA氏は続ける。
「それまでの、ギターバンドと称されていた一群のバンドに比べて、彼らは自分たちがやっていることに対して、最初から相当確信的だったし、明確な戦略を持ちながらバンドを運営していました」
日本でもすっかりロックフェスティバルがお馴染みとなり、音楽ビジネスの中心が、CDなどのパッケージ販売からライブエンタテインメントへと移行しつつあった当時、彼らが何よりも重要視したのはライブ演出だった。映像や照明、音響にこだわりながら、ときに楽器を離れ、メンバー全員がパソコンを操作するなど、バンドを「脱構築」するようなライブパフォーマンスを展開したサカナクション。彼らは、それまでのバンドが避けていたテレビというメディアも積極的に活用しながら、自分たちの魅力を広く世にアピールしていく。ちなみに、14年末に放送されたフジテレビのドキュメンタリー番組『ライナーノーツ』には、サカナクションの熱烈なファンとして、妻夫木聡、水川あさみ、神田沙也加ら著名人が10名登場。サカナクションの魅力について異口同音に熱く語っている。ブログやツイッターなどの普及で芸能人が特定のアーティストのファンであることを公言するのが当たり前になった一方で、アーティスト側からしても、折からの予算削減などで宣伝費も削られる中、著名芸能人によるファンアピールは、むしろ願ったりかなったりという時代が到来してくるのである。
さらに、サカナクションのもうひとつの新しさとして、大手メジャーレコード会社で働くD氏は次の点を指摘する。
「サカナクションの場合、女性メンバーが2人いるというのも大きいでしょうね。もう見た目からして、いわゆる“男っぽさ”を前面に押し出したバンドではない。そこがイマドキだったのかもしれないですよね」
前出のヘアメイクC氏も、これに同調するように、こう語る。
「バンプ・オブ・チキンのフロントマン、藤原基央さんまでの前髪は、あくまでもナチュラル、ぶっきらぼうに伸びた前髪でした。対してサカナクション山口さんの前髪は、知的に見えるようにきれいに切り揃えられているんです。女性的というか、少なくとも荒々しい男っぽさをアピールする前髪とは対極のところにありますよね」
バンドに女性といえば、紅一点のボーカルか女性のみのガールズ・バンド、というのがこれまでの常道だろうが、女性2名を擁するサカナクションのフロントは、あくまでも男性の山口。そして、それ以前のバンドのような男性的なぶっきらぼうさとは真逆のところにある切り揃えられた前髪。前髪重い系バンドはこうして、女性性を獲得したのである。
ファンタジー世界を希求する“物語”としての前髪
そうした流れのなかで、象徴的なバンドがまた登場する。セカオワだ。11年にメジャーデビューし、同年には武道館単独ライブを成功、13年には3日間で約6万人を集めた野外企画「炎と森のカーニバル」を開催。14年末には紅白歌合戦に出場するなど、この5年間でメキメキと頭角を現してきたこのセカオワ。そのフロントマンであるFukaseの前髪も、やはり重い。そして、キーボードに女性を擁する男女混成バンドでもある。さらに、サカナクション同様、視覚イメージを含めた総合エンターテインメントを標榜している。だが、セカオワの魅力の中心には、サカナクションにはなかったものがあると前出のA氏は語る。それは「物語性」だ。
「かつて精神を病んでいた時期があると公言するなど、かなり危なっかしい存在であるFukaseをメンバー全員が取り囲んで守る、というのがセカオワの物語の基本構造です。さらに、Fukaseのことを幼稚園時代から知る女性メンバーSaoriの存在、メンバー全員での共同生活など、彼らはこれまでのバンドとは違う物語性を持っています。いわゆるロック的な物語というよりも、まるで少女マンガのような物語。若い子たちがセカオワにハマるひとつの魅力が、そこにあるのでしょう」
サカナクションが、比較的年齢層の高いファンからの熱烈な支持、あるいはファッション関係などクリエイターたちからの高い人気を得ていたのに対し、セカオワ人気を支えているのは、もっと若い層、下手をすればまだ10代そこそこの子どもといってもいい年齢のファンたち。そこには、彼らが持つ「少女マンガ」のような物語性が関係しているというのだ。そのことは、前髪からも見て取れると前出のヘアメイクC氏は語る。
「Dragon Night」のときの赤っぽく染めた髪のイメージが強いFukaseさんですが、実は曲ごとにかなり頻繁にヘアスタイルを変えています。また、そのたびに毎回ウェーブを入れているのが彼の前髪の特徴。セカオワの物語に合わせて変幻自在なのかもしれませんね」
サカナクションで女性性を獲得した前髪重い系バンドの前髪は、ここにきて物語性、しかもキラキラしたファンタジーのような幻想性を獲得する。同じくファンタジー世界を生き、ヘアスタイルのみならずコスチュームも背景となる歌詞世界も、ついでにいえばお顔のほうもビミョーに変化するきゃりーぱみゅぱみゅとFukaseの相性が良かったのは、ある意味において当然だったのである。
自然に見えて作為的 コメディとしての前髪
そして、ゲス極である。ライブシーンでの盛り上がりを受けて、14年にメジャーデビュー。同年のシングル「猟奇的なキスを私にして」のリリース・タイミングで、いきなり『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に出演。以降、バラエティ番組にも積極的に出演し、14年末には紅白歌合戦に出場するなど、瞬く間にお茶の間レベルで知られるようになったのは周知の通り。マッシュルームカットで眉を隠したフロントマン・川谷絵音のルックスは、明らかに「前髪重い系」の系譜を継いでいる。そして、ドラムとキーボードが女性という男女混成バンドであるところも、サカナクション以降のバンドのあり方を踏襲。だが、そこに彼らは、さらに新しい要素を持ち込んだと前出のA氏は指摘するのだ。
「“お笑い”の要素です。そもそも“ゲスの極み乙女。”というバンド名からして、ふざけていますよね(笑)。川谷君が書く歌詞は、意味深なものが多いけど、それに対して彼は特に責任を持ちません。なぜなら、そこに歌い手の内面性が投影されているわけではないから。それはインタビューなどで本人も認めています。そういう意味でゲス極の歌詞は、電気グルーヴなどに近いのではないでしょうか。意味があるようでない、言葉の響きを希求したナンセンスの面白さというか。そこが、ロックバンドとして新しいところです」
それ以外にも、ベースの休日課長がドラムのほな・いこかに片想いをしているという“設定”や、その設定を生かしたライブ中のコント的なやりとりなど、従来のロック・バンドとは異なる「笑い」の要素を混ぜ込んだ、独特なライブを披露しているゲス極。そこには、川谷自身が自らの音楽性を追求する別ユニット、indigo la Endとしての活動を並行して行っていることも大きいようだ。ロック・バンドとしてのまっとうな活動は、indigo la Endで。しかし、その余技として始めたゲスの極み乙女。のほうが先に人気が出てしまったのは、皮肉な現実ではある。
「お笑いができるということは、イタい“自意識”からは外れているということを意味します。自分たちのことを、自分たちで笑うことができるのですから。そこがバンドの親しみやすさにもつながっている。もともと音楽とお笑いというのは、エンターテインメントの二軸であり、その両方を極める人たちが国民的な人気を獲得していくのは芸能界の常。クレージーキャッツ、ドリフターズ、タモリなどがいい例でしょう。ひょっとすると、そこへの揺り戻しや原点回帰的なことが、音楽業界の側で起こっているのかもしれないのです」
対する前出のヘアメイクC氏の言はこうだ。
「彼のヘアスタイルは『ブサイクを隠しているだけ』などとよく揶揄されていますが、実は非常に計算されています。目にかかるギリギリのところでのカット、ナチュラルなように見えて片方の耳だけチラ見せする、さらに雑誌グラビアではきれいにファンデも塗り、黒目のカラコンも入れている。そういう意味では、“あざとい”のかもしれません」
バンドにお笑いという要素を取り入れるそのセンス、計算され尽くしたヘアメイク。そこには、音楽とお笑いを制した芸能界の国民的スターたちの風格さえ漂う、のかもしれない。彼が、国民的大スターと道ならぬ恋をし、それが発覚して国民的大注目を浴びるのは、ある意味において必然だったのだ。彼の前髪が、そのことを雄弁に物語っている……。
以上で、前髪重い系バンドの人気の秘密の一端が、賢明なる読者諸氏には十分ご理解いただけたことかと思われる。
明日以降は、本誌連載「川崎」でもお馴染みの音楽ライター・磯部涼氏の「前髪重い系バンド分析」をはさみ、音楽業界関係者が語る「覆面座談会」にて、彼ら前髪重い系バンドのビジネス展開やその裏側について眺めていこう。前髪をかき上げて、両のまなこでじっくりと読んでいただきたい。
(文/オカタトオル)