精神科医が話題の実録犯罪映画をカウンセリング!「家族への幻想は捨てたほうが楽に生きられる」
<p> 家族とは共に支え合い、いたわり合うもの。誰もがイメージする普遍的な家族像だろう。ところが南米アルゼンチンで実際に起きた誘拐事件を題材にした映画『エル・クラン』に登場するプッチオ家はあまりに強烈なモンスターファミリーだ。ブエノスアイレス郊外の高級住宅街で暮らすプッチオ家は一見すると平穏そのものな幸福家族だが、家長である父親の職業はなんと営利目的の誘拐犯。ラグビーで鍛えた息子たちに手伝わせて人質をさらい、身代金の交渉がうまく進まないとあっさり人質は殺してしまう。母親と娘たちは自宅の一室に人質が監禁され、悲鳴を上げているのを知りながら、警察に通報することなく平然と暮らしていた。本作を手掛けたパブロ・トラペロ監督の軽妙な演出ぶりは高く評価され、ベネチア映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞。アルゼンチンで300万人を動員する記録的大ヒットとなった注目作だ。</p> <p> 事件が発覚したのは1985年。アルゼンチンは長らく軍事独裁政権が続いていたが、フォークランド紛争を経て、ようやく民主化の道を進み始めた時代の変換期でもあった。軍事政権下で秘密警察として働いていた父親アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)は職を失い、家族を路頭に迷わすわけにいかず誘拐業に手を染める。シリアスな社会派ドラマとしても、軽快な音楽に乗せて犯罪が描かれるブラックコメディとしても楽しむことができる。だが、この家族は謎めいた行動がとても多い。長男アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)はアルゼンチン代表選手に選ばれるほどの名ラガーマンだったのに、父親は長男と同じチームの選手を誘拐する。父親は「家族のため」と言いながら、同時に子どもたちが逃げられないよう共犯関係に追い込んでいく。一方、次男マキラ(ガストン・コッチャラーレ)は海外で暮らしていたにもかかわらず、一家がそろそろヤバいという状況になって、わざわざ帰国して家族と合流する。本作を観ていると、家族とは何なのか分からなくなってくる。『「毒親」の子どもたちへ』(メタモル出版)や『家族の闇をさぐる 現代の親子関係』(小学館)などの著書で知られる精神科医の斎藤学氏に、本作で描かれた登場人物たちの行動心理について尋ねた。</p>