近代施設と旧き風俗街が並ぶ街は韓国の“新世界”と、なりうるのか?『永登浦(ヨンドンポ)』
駅を背にして右の建物が新世界デパート。左のビルがタイムズスクエア。ちょんの間は路地を左に進んだところにある。
今回の旅の宿は、ソウル市内、鍾路3街(チョンノサンガ)にあるゲストハウス。しかも、6ベッドのドミトリーである。予算の見積もりを失敗したシワ寄せがこんなところに現れてしまったわけだ。ま、バックパッカーだったので慣れてるけど、やっぱり、ね……。
しかも到着早々、トランクのカギが開かないトラブルに見舞われつつも、急ぎ足で向ったのは永登浦(ヨンドンポ)にある新世界デパートとタイムズスクエアの並ぶ路地だった。
駅から地下通路を歩けば3分というその一画にそびえ立つのは、新世界デパートと、国内最大級を誇る複合ショッピングモール「タイムズスクエア」である。青白くきらびやかに浮かび上がる近代的な“街”がそこにある。
午後8時、まだ開店していないちょんの間と、そのうしろにタイムズスクエアがそびえる。
しかし、もちろん、ここに来たのは買い物のためではない。そのキラキラした街の端っこにへばり付くピンク色に輝く街を見るためだ。新世界デパートとタイムズスクエアのすぐ隣、そこには、別世界のちょんの間街が残っているのだ。
永登浦はかつて工場地帯であり、タイムズスクエアの建つ場所も、元は紡績工場跡地だった。ちょんの間は、その町で働く労働者たちの慰労のためにできたといわれる。
「永登浦のちょんの間は、財閥と戦っているんです」
ガイドのP氏はそう語る。
2009年、ちょんの間街から見れば、すぐ裏に巨大なショッピングモールが完成したが、逆にモールの事業主から見れば、直近に風俗街があるなんて愉快なことではない。
「モールは駐車場の出入り口を、わざとちょんの間街の側に造ったんです」(P氏)
ちょんの間街の外れに照明のついている店があったが、女のコはまだいなかった。左側の先に駐車場の出入り口があり、クルマはこの路地を通らないと駐車場に入れない。
おおっぴらには顔を見られたくない風俗嬢たちをそこに居づらくさせて、ちょんの間を閉鎖に追い込む作戦に出たという。
「でも、その作戦は失敗でした。怒ったちょんの間の権利者たちは、何がなんでも店の権利は譲らないと強行策に出てしまった」(同)
その結果、グランドオープンから5年が過ぎた現在も、“新”と“別”の世界が同じ路地に存在している。どうやら、今のところは、ちょんの間側に軍配が上がっているようだが、相手はあの財閥系(前号の記事参照)。次の戦いやいかに……。
龍山は壊滅しオーパルパルも縮小したのに比べると、永登浦は優秀な方だ。写真は2002年3月の永登浦。
(写真、文=松本雷太)