ASKAがつづっていた、“日本人初”韓国ライブへの想い――再逮捕に、かの国には?
『僕にできること いま歌うシリーズ』(ユニバーサル シグマ)
「2000年。韓国でライブをやることになった。突然、韓国政府から招待されたのだ。日韓の音楽の架け橋になるアーティストをずっと探していたのだと言う。韓国側の関係者は、数年に渡り日本のいろんなミュージシャンのライブに足を運んでいた。私たちに白羽の矢が立ったのは、福岡のCOUNTDOWN LIVEだった。私たちは韓国政府に招かれ、大統領官邸『青瓦台』で大統領令夫人と会うことになる」
これは28日に再逮捕された歌手のASKA(本名・宮崎重明)容疑者が、今年1月に公開したブログ「700番」でつづった一文だ。全20章からなる「700番」の第5章は「韓国ライブ」とのタイトルがつけられており、00年8月26・27日の韓国ライブに至るまでの経緯や、プロモーションの難しさ、韓国中央情報部(KCIA/当時)の監視、またライブが大成功に終わったことなどが書かれていた。文章を読む限り、そしてYouTubeにアップされている、感極まって「On Your Mark」を歌えないASKAの姿(https://www.youtube.com/watch?v=jTv_nZR5138)を見ても、彼にとってこのライブは、アーティスト人生におけるハイライト的な出来事だったといっていいだろう。
何より、ASKAにとってだけでなく、韓国にとっても歴史に残る一大イベントだった。というのも、韓国では当時、日本の大衆文化が全面的に開放されておらず、日本のアーティストとして韓国で公演したのはCHAGE&ASKAが初だったのだ。まさに、韓国の音楽史にも残る功績を築いているわけだが、そんなASKAの再逮捕を韓国メディアも報じている。
「日本の人気デュオ“CHAGE&ASKA”のASKA、また覚せい剤取締法違反」と報じたのは「NEWS1」だ。「日本最高の男性デュオに選ばれるCHAGE&ASKAのASKAが、覚せい剤取締法違反の容疑で再び警察の捜査を受けると現地メディアが報道した」と始まる同記事は、ASKA再逮捕の事実とともに、彼がブログで「陽性反応は100%ない」などと否認したことについても詳細に触れている。
また、「XPORTSNEWS」は「日本の国民的歌手ASKA、2回目の覚せい剤容疑の“衝撃”…本人は否定」と見出しを打ち、「日本の歌手ASKAが覚せい剤取締法違反の嫌疑をかけられているが、本人はこれを否定しており、波紋が予想される」と伝えた。
「日本最高」「国民的歌手」といった修飾語がASKAの大物感を伝えているわけだが、どちらの記事も、2000年の韓国ライブについては不自然なほど触れていない。
もしかしたら、韓国政府が招待した歌手が覚せい剤で逮捕されたという“黒歴史”を隠したかったのかもしれないが、そもそも記事を書いた記者があの韓国ライブを知らなかったという可能性も否定できない。というのも、とある30代の韓国人女性は、「ASKAという歌手は知らないし、聞いたこともない。たぶん周りで知っている人は、ほとんどいない」と話す。韓国では、ほぼ知名度がないのが現実のようだ。
実際、再逮捕を報じる記事には、「パッと見、薬物をやっていそうな顔だ」「『アンセンギョヨ』(バラエティ番組の人気コーナー)の芸人だと思った」などというコメントくらいしか書き込まれていない。
「このライブには口にできない秘話がある。これは我々が活動を引退した時に話すこととしよう」――冒頭のASKAが書いた「韓国ライブ」の章は、こう締めくくられる。意味深だが、この話が明かされる日は来るのだろうか?