ゆうたろうオフィシャルサイトより
ゆうたろう旋風が巻き起こっている。石原裕次郎ファッションに身を包み、渋い声でワイングラスを傾ける男がなぜ突然ブレイクを果たしたのだ、と考えるのは早計であり、彼の話ではない。17歳の美少年ショップ店員、ゆうたろうの話だ。今年の2月に『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)に出演しタレントデビューを果たすと人気が沸騰、わずか3カ月でテレビや雑誌の取材数は60を超えたそうで、いま一番熱いタレントの一人だと言って間違いない。
実際、明らかに美少年であり、とにかく可愛らしい。ゆうたろうに会うためにショップにやって来た女性ファンが「守ってあげたくなる感じがいい」「超可愛い」「ギュッとしたくなります」と熱を上げているのもよく分かる。5月31日に放送された『人気者から学べ そこホメ!? 2時間SP』(フジテレビ系)では心理学者がその魅力を分析しているのだが、それによると、ゆうたろうの人気は自分を小さく見せていることにあるらしい。
確かにゆうたろうは常にサイズの大きい服を着ている。それゆえに見ている人はゆうたろうを弱々しく思い、愛さずにはいられなくなるらしい。また、そんな守ってあげたいゆうたろうが自然体で自立して役に立っている姿を見るとポジティブイリュージョン効果というものが生まれるらしい。つまり小さなゆうたろうが頑張ることで元気を与える。それが人気の秘密なのだそうだ。
確かにその通りで、ゆうたろうがただの美少年なのであれば、これほどまでに人気を得ることはなかっただろう。愛される姿形をしていながらも、そこに甘んじることなくショップ店員として働く姿にファンは魅了される。守ってあげたいと思わせるゆうたろうが、しっかり社会に個人として立っていることが重要なのだ。
そしてそのメカニズムは、タレントとしてのゆうたろうにも同じように働いている。可愛いだけのショップ店員、だけでは飽きられるし、瞬間的に風が吹いても長く活躍するのは難しい。だがゆうたろうはタレントとしてもまた求められつつある。その個性が、共演者を活躍させるのだ。
たとえば、ゆうたろうの着ている服の話になった際、柴田理恵が口を挟む。「ソデに醤油がついちゃう」と心配する柴田に対して「また発想が昭和だな!」とツッコミが起き、笑いが生まれる。あるいは最近若者のあいだで話題の写真で顔を入れ替えるアプリが紹介され、岸博幸とゆうたろうの顔が入れ替わった写真は単純に面白いし、ゆうたろうがトシをコーディネートした姿はワクワクさんにそっくりだ。ここではゆうたろうは既に主役ではない。ゆうたろうが持ってきた材料を使って、共演者が活かされている。
アプリにしてもコーディネートにしても、本人たち発信ではない。本人たちから言い出してしまったらそれはただのお遊びになってしまう。あくまでもゆうたろうというある意味での異物が持ち込んだ材料だから、共演者たちが楽しんでいる姿が視聴者にとって意味のあるものとなる。このようにしてゆうたろうは共演者を活かす。そしてそのような形でテレビはゆうたろうを活かしている。ストリートとテレビの融合。2016年、ゆうたろうの存在によって、そんな壮大な実験がひそかに行われているのかもしれない。
【検証結果】
あるいはゆうたろうは、かつてのアイドルであると言うこともできるだろう。まだアイドルが高嶺の花で、一般人と別の世界をアイドルが生きていた時代、アイドルの言葉は常に神秘的だった。ゆうたろうは番組でも好みのタイプを問われた際、戸惑ったように「僕の中でまだ恋愛感情が分かってなくて」と答えるが、それはまさにかつてのアイドルの答えそのものだ。今ほどアイドル文化が消費された時代、アイドルが真っ当にそう答えるのもどこか薄っぺらい。だが人々はいつの時代でも神秘性を求めている。かつてアイドルが成しえていたことを、ストリートという異界から持ち込んだ存在が、ゆうたろうだと言えるのではないか。
(文=相沢直)
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●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは @aizawaaa
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