「12プレミア」の記事一覧(12 / 15ページ)

タモリがNHKにキレた!三代目JSBかAKBかで割れるレコ大!荒れる年末歌番組の行方

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司会者選考からドタバタの『NHK紅白歌合戦』。

 今年も残すところあと1カ月半、毎年この時期になると芸能界で注目を集めるのが暮れの音楽特番『NHK紅白歌合戦』と『輝く! 日本レコード大賞』(TBS)だ。もはや形骸化されている祭典とはいえ、出場・受賞をめぐる熾烈な争いは、相も変わらず水面下で繰り広げられている。

「今年の紅白は昨年の『Let It Go~ありのままで~』のような目ぼしいヒット曲もなく、業界全体として目玉がない。冗談ではなく、今年最大のヒット曲はお笑いコンビ『クマムシ』の『あったかいんだからぁ♪』だなんて声もあるほど。しかも、昨年は『ワンピース』の劇場版再放送という異例の白旗で早々に視聴率対決から退いたフジテレビが、今年は10年ぶりに格闘技大会『RIZIN』の中継番組をぶつけてくるなど、ライバル局も大みそかの特番にはかなり力を入れており、苦戦は必至」とは某レコード会社スタッフ。

 そうした中、NHK側は「せめて司会者だけでも話題の人を」と、タモリに白羽の矢を立て、これに多くの芸能メディアが追随したものの、結果、実現はしなかった。11月5日時点では、紅組司会は2年ぶりの綾瀬はるか、白組はV6の井ノ原快彦、総合司会はNHKアナウンサーの有働由美子と報じられているが、タモリ擁立失敗の舞台裏を同局関係者はこう明かす。

「タモリ司会の第一報は10月初旬の日刊スポーツでした。同紙がNHKと太いパイプがあることは業界ではつとに有名で、『日刊なら間違いない』と多くの後追い報道が出た格好です。実際、当初は総合司会はタモリ、白組はV6井ノ原、紅組は有働由美子で内定だったそう。日刊の一報通り、タモリサイドもこれを了承。ですが、後追い報道で『タモリの人脈で(NHK『ブラタモリ』のテーマソングを歌う)井上陽水などの大御所が出演』などと先走った記事が出たためタモリがヘソを曲げたという見方もあります」(スポーツ紙芸能デスク)

 だが、芸能マスコミの飛ばし“予想”記事で、タモリほどのタレントが辞退するとは思えないが……。

「話題性の乏しい今年の紅白をなんとか盛り上げようと、NHKもタモリの名前を利用したフシがあるんです。井上陽水らにアプローチを試みた際、その交渉材料として『総合司会タモリ』という名前を使っていました。これにはタモリ側も憤慨し、『なぜ俺が利用されなきゃならないんだ』と急遽辞退してしまったというのが真相です」(週刊誌記者)

 そこで困ったのはNHK。通常、紅白の司会は10月半ばには決定しているのだが、まさかの辞退で白紙に。

「仕方なく紅組に決定していた有働を総合司会に据え、白組にはそのまま井ノ原を、紅組にはホリプロの綾瀬はるかで収めました。ただ、綾瀬は司会者としての評判は決して高くないため、これはNHKが譲歩したともっぱらです」(前出・デスク)

つづきはコチラ

「もうまともにやっても儲からない」 まだまだ改善点だらけ……悪用された診療報酬制度

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『詐欺とペテンの大百科』(青土社)

 住吉会系組長の三戸慶太郎容疑者(49)ら16人が東京・杉並区の接骨院で、実際には行っていない施術を繰り返し行ったように装い、療養費45万円をだまし取った詐欺の疑いで逮捕された診療報酬詐欺事件。

 今後は詐欺に加担していた容疑で、テレビにも出演していた有名美人女医や患者役をつとめたお笑い芸人などの逮捕情報も流れるなど各方面へ広がりそう。事件発覚後には、接骨院の“開業”期間中に療養費を申請した、およそ350人の大半が、国民健康保険の加入者で、一度も来院していないことが発覚した。

「警視庁は、三戸容疑者らが、保険給付の審査の人員不足が指摘される国民健康保険を狙って、患者役を集めていたとみて調べている。患者役にはなんの罪悪感もなく、自分の行為が犯罪に当たるとはまったく思わなかっただろう。とはいえ、最大の問題は、一般人には診療報酬に関する犯罪の意識がまったくなく、長年、制度が大なり小なり“悪用”されてきたこと」(医療関係者)

 今回はほとんど営業実態のなかった接骨院が犯罪の舞台となったが、特に、接骨院と並び、国家資格の柔道整復師を持ったスタッフが施術を行う施術所である整骨院はなかなか“おいしい”業種だったというのだ。

「地方なんかは、柔道の道場に併設されたり、その地方の柔道界の有力者が開業することが多く、以前は柔道関係者の専売特許ともいっていい業種だった。特に、昔の保険制度では家族に対して与えられる保険証が1枚だった。そのため、家族のうち誰かが通院したら、ほかの家族も通院したことにしたり、道場生が通院したら回数をごまかしたりなど、いくらでも診療報酬を水増しすることができた。営業しているだけで儲かるのだからとにかくボロい商売だった」(柔道関係者)

 ところが時が流れ、保険制度が改定されて、いつの間にか、接骨院・整骨院にとっては厳しい時代になってしまったというのだ。

「『儲かる』という評判で、どんどん資格を取る人が増え、同業者が増えすぎた。そうした中で、以前よりも診療報酬の請求がかなり厳格化され、昔のようにアバウトなことは通用しなくなり、一気に稼げなくなった。だから、保険外の報酬であるマッサージやゲルマニウム温浴などの実費施術できる項目で稼がないといけない。もう診療報酬が出る項目をまともにやっていても稼げない時代。診療報酬が出る項目だけで稼ぐなら三戸容疑者たちのように犯罪行為を組織ぐるみでやるしかないが、ここまで巧妙にやっても結局、逮捕者が大量に出た」(同)

 捕まりたくなければ、コツコツ稼ぐしかなさそうだ。

ドラマ『HiGH&LOW』はEXILE版『テニミュ』である――視聴率以上の金脈を狙うLDHの目論見

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『月刊EXILE 2015年 11月号』(LDH)

 EXILE一族が総出で出演するドラマ『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』(日本テレビ系)がスタートした。視聴率は深夜帯ながら初回は1.9%、第1話2.7%、3話2.3%と及第点をクリアしているが、歴史的大ゴケドラマ『HEAT』(フジ)の主演として汚名をこうむったAKIRAなどの例を見ても、どうもEXILEは視聴率に縁がないのではないかという疑念は拭えずにいる。

 しかし、今回の『HiGH&LOW』に関しては、制作全般を担っているEXILEの事務所・LDHには”視聴率以外”の狙いがあるという。

「そもそも今回は視聴率を狙ってドラマを制作しているとは思えない。数字が良いにこしたことはありませんが、深夜1時半からの放送では、たとえ熱心なファンでも毎週見るのには厳しい時間帯。視聴率獲得以上の目的が今作にはあるんです」(テレビ局関係者)

『HiGH&LOW』はドラマにとどまらず、来年夏の映画公開、劇中歌を担当するLDHアーティストによるCDアルバムの発売、そしてそれを引っさげてのライブツアーまで、映像と音楽を横断する総合エンタテインメントとして展開していく予定だという。さらにこれらには、ある仕掛けが用意されているという。

「このドラマは複数の”不良チーム”が対立しあうという設定になっています。不良チームにはそれぞれチーム名とエンブレム、さらにはカラーが決められている。この設定が今後”物販”の面でかなり良い働きをしてくるはずです」(ライブ制作関係者)

 CD不況の音楽業界では、ライブ事業が頼みの綱になっているのは周知の事実。さらにそのライブ事業の中でも、売り上げの大事な部分は「グッズ物販」が担っているというのは通説である。

「EXILE一族のライブも物販での儲けはかなり大きいといわれています。『HiGH&LOW』を利用すれば、EXILEや三代目JSBだけではなく、各不良チームごとのグッズを展開できる。そうすれば今まで以上の儲けが期待できるんじゃないですかね。EXILE・三代目JSBの人気メンバーを”ドラマの設定”という名目のもとバラけさせ、数チームに再編成することで、物販面での可能性も広がったというわけです」(前述のライブ制作関係者)

 この”チーム分け”というスキームが金脈を掘り当てる可能性があるのは、なにも物販面だけではない。オタク系カルチャーに明るいライターは、今回のLDHのプロジェクトがアノ人気女子向けコンテンツに似ていると指摘する。

「『HiGH&LOW』はEXILE版『ミュージカル・テニスの王子様』(以下、テニミュ)といってよいのではないでしょうか(笑)。テニミュも学校(=チーム)ごとに設定やカラーがあり、まずは『どのチームを応援しようか』という選択が一つの楽しみになっている。そして贔屓のチームに感情移入していくファンは、グッズを熱心に集め、公演に熱心に通います。そういう”オタク的”な楽しみ方ができるコンテンツを、オタクカルチャーとは最も縁遠い存在のEXILEがやるというのは興味深いです」(オタクカルチャー系ライター)

 テニミュは従来のマンガ・アニメオタクだけではない幅広い層にウケ、いまや1公演で2億3億を稼ぎ出すともいわれている。奇しくもテニミュを主催するネルケプランニングとLDHの本社が同じビルにあるわけだが、総合プロデューサーのHIROがテニミュから着想を得た可能性も…?

「それは分かりませんが(笑)。しかし、HIROさんはEXILEがいわゆる”マイルドヤンキー”であったり、コワモテなイメージであることは自覚していると思いますし、そこから一歩脱却したいと考えているのではないでしょうか」(前述・テレビ局関係者)

 つまり、”ドラマ”というフィクションの力を借り、メンバー一人ひとりのイメージを従来のEXILE的なイメージから離すことで、マイルドヤンキー文化を嫌煙していた層に訴求したい思惑があるのではないかという。

「テニミュに加え、女性ファンの多いマンガ『Free!!』『弱虫ペダル』『ハイキュー!!』などはどれも”チーム男子モノ”です。同じチームの中にいる男の子たちの人間関係に萌え、また対戦相手との関係にも萌える。『HiGH&LOW』もいわばこの”チーム男子モノ”ジャンルと呼べます。それこそテニミュにハマる文化系女子に響けば、ファン層拡大のチャンスもあるのではないでしょうか」(前述のオタクカルチャー系ライター)

 果たして視聴率以上の成果が得られるのか、その動向に注目したい。

貴女の夫はユニクロのフリースか? 男は「ステータス」、女は「タイミング」で結婚を決意する――W不倫マンガ『あなたのことはそれほど』から学べること

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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『あなたのことはそれほど 3』 (フィールコミックス)

 今回は、自己中に不倫に突き進む女と、なんとなくそれを受け入れてしまう男のW不倫を描いたマンガ『あなたのことはそれほど』をピックアップ!

※本文中にはネタバレがあります。

 データ漏えいを恐れて自殺者も出た不倫マッチングサイト「アシュレイ・マディソン」(男性登録者3100万人)の例を出すまでもなく、「不倫」には国家・人種を超えた麻薬的な魅力があるようだ。

 そんななか、我が国が誇るW不倫マンガ、待望の最新刊が10月に発売された。既刊3巻(以下続巻)で累計35万部突破、いくえみ綾の『あなたのことはそれほど』である。掲載誌は女性向けの『FEEL YOUNG』(ともに祥伝社)。しかし男も読める、否、男も読むべき問題作だ。未婚男性も既婚男性も、職場の同僚やマンションのパパ友と、輪読会で議論を交わすのに格好のテキスト。今まで育んできた女性観の棚卸し作業に、ぜひ勤しんでいただきたい。

 大事なことなので先に言っておこう。男性諸氏がこのマンガで学ぶべきは、不倫の仕方や妻の不倫を防ぐ方法ではない。ズバリ、男と女が結婚相手を決める根拠の決定的な差である。本書は「不倫」という行為について綴りながら、4人の夫婦がそもそもなぜ現在の配偶者をセレクトしたのかを、残酷にあぶり出す物語である。

 主要登場人物は2組の夫婦だ。まず、ヒロインの三好美都(みよし・みつ)29歳と渡辺涼太の夫婦(子どもなし)。そして美都の不倫相手である有島光軌(ありしま・こうき)と戸川麗華の夫婦(作中で第一子誕生)。このうち、美都と光軌が不貞を働く。

 病院の受付事務員である美都は、とりたてて特徴もないが、そこそこの美人。ある時、小中学校時代に片思いだった同級生の光軌と偶然再会し、不倫の泥沼にズブズブと足を埋めていく。

 その光軌はいわゆるイケメンのモテ男。学生時代から女性関係であまり苦労したことはない。それゆえ、もともと美都には取り立てて思い入れもない。しかし美都からのアプローチに応じ、素直に据え膳を食った。

 次に、それぞれの配偶者を見てみよう。美都の夫、涼太はインテリア関係の会社の総務職、35歳。生真面目で穏やか、几帳面で料理が得意な男。「安パイ」という言葉の似合う、無難な善人そのものである。

 問題は光軌の妻、麗華である。彼女は「地味でパッとしない容姿の女性」として描かれている。高校時代は光軌と同じクラスで委員長。表情は固く、愛想がなく、男子に人気があるとは言いがたい。もちろん男っ気はゼロ。父親が失業して家出中の貧困家庭に育っており、常に物事を冷静に見ている。しかし内なる情念はすさまじく、一昔前のストーカー女的な雰囲気を持っている。

 冒頭で提起したように、ここで考えるべきは、なぜ美都と涼太、光軌と麗華が結婚したかということだ(特に男性読者は、なぜ光軌が麗華を選んだのか理解に苦しむだろう)。結論から言えば、女は「タイミング」で結婚を決意し、男は「ステータス」で結婚を決意する。だからこそ、この2組の夫婦は夫婦たりえた。

イケメンがブスと結婚した理由

 美都は病院に患者として往診に来た涼太と“なんとなく”交際し、“唐突に”結婚する。もともと涼太のような男がタイプだったわけではない。昔好きだった光軌とは正反対のタイプだ。涼太とドラマチックな恋の駆け引きはない。美都の友人の言葉を借りるなら「とりあえずいい物件見つけて急いで買ったみたい」というやつだ。
 
 仕事に自己実現を図っているわけではない。打ち込める趣味があるわけでもない。そんな美都がアラサーに差し掛かり、そろそろ相手いないかなあと思っていたら、手頃な物件が現れた。ため息が出るほどの輝きはないけれど、気になる瑕疵も特にない。エキナカのユニクロに積まれているフリースのごとき、「今夜寒そうだし、一着買っとこ」的なアレだ。陳列が視界に入ってから会計までの所要時間2分、というやつである。

 麗華の場合は高校時代まで遡る。恋愛沙汰などまったく縁遠かった彼女だが、クラスメートの光軌がなにげなく下の名前の「麗華」と呼んだことで、突然スイッチが入ったのだ。不気味なほど積極的になった麗華は光軌に猛接近。卒業後すぐに付き合いだし、現在に至る。こちらは例えるなら、ユニクロ専門の残念女性が、会社帰りにショウウインドーで見かけたいエルメスのコート(50万円)に魅了されて、その場で衝動買いしたようなものだ。

 美都も麗華も、綿密に戦略を立てて相手を探したわけではない。その瞬間の自分の心境、心のありようにジャストフィットする相手が、目の前にたまたま現れたので素早くハントしたにすぎない。1カ月前や1カ月後にまったく同じシチュエーションが訪れたとしても、ハントしたかどうかは怪しい。彼女たちの伴侶選びの根拠は「タイミング」なのだ。

 一方の男性陣はどうだろう。涼太は美都の誕生日に「僕と結婚してくれてありがとう」と言う。彼が美都を選んだ理由は、美都の見てくれが良く、隣にいれば自分を引き上げてくれる女性だからだ。涼太は自分が男性としては野暮ったい人間であり、仕事上でもプライベートでもキラキラ輝いていないことを知っている。だからこそ、美都というキャワイイ美人妻を持つことで、彼の自尊心は満たされるのだ。

「自分はこんな綺麗な女を妻にできるだけの男である」という自負こそが、涼太の幸福だ。彼にとって重要なのは、「綺麗な奥さんとの結婚生活」であって、美都が自分を本当に愛しているかどうかではない。だから涼太は美都の不倫が発覚しても別れようとしない。不義よりも結婚生活を失うことのほうが、彼にとっては不快なのだ。

 他方で、光軌の結婚理由については、考察のしがいがある。イケメンのモテ男が、なぜ不美人で地味でストーカー気味の面倒な女である麗華と付き合い、結婚し、子どもまで作ったのか。そのヒントは、光軌の妹のセリフにあった。

妹「ああゆう人(麗華)がもし彼女だったらさ、あたし少しは兄(にい)のこと見直す」
光軌「な、なんで?」
妹「本気で選んできたなって気がする……から?」

 ここには「あえてブスと付き合うリア充のイケメンは、なぜか尊敬される」の法則が働いている。モテ男である光軌とて誰かから、ひとかどの人間として尊敬されたい。そんななか、異性で唯一、恋愛感情や打算なしで自分を客観評価してくれるのが妹というわけだ。その妹の出した「高評価」が決め手となって、光軌は麗華と付き合った。麗華と付き合うことで、ひとかどの人間になれる思ったからだ。目的は麗華への愛ではなく自己愛である。それゆえ驚くべきことに、光軌が麗華に「惚れている」描写は作中にまったく見られない。

 涼太も光軌も、結婚することで自分の「ステータス」が上がるような相手を選んだ。ここで言うステータスとは、RPGにおける能力値のようなもの。LV、HP、MP、所持金など、定量的に示される複数パラメータの総合力である。

 涼太と光軌に「相手が好きで好きでたまらないから、添い遂げたいと思った」という感情は存在しない。自分の経験値を上げてくれる相手に目をつけ、結婚というプロジェクトに「取り組んだ」にすぎない。

 そんなバカな、結婚相手は『ドラクエ』のメタルスライムじゃねえぞと言うなかれ。世の中は、そういうことであふれている。「助手席に乗せる女のグレードと車の値段は比例する」とは一体どういう意味なのか。なぜ「悪妻は男を成長させる」などという謂があるのか。「付き合ってる女で男の度量がわかるよね」と、口の悪い(男性ではなく)女性が発言するのはなぜなのか。

 男は体裁を気にする、世間体を気にする。格好つける。それらが可視化された数値が「ステータス」だ。多くの男の人生目標はステータスアップであり、その「ステータス」の中に妻のスペックも含まれているのは自明。彼らは死ぬ瞬間までステータス向上に務める。人から尊敬されたいと願い続けて死ぬ(クリアした『ドラクエ』のレベル上げに延々執心する男性には特にその素質があるので、女性は注意されたい)。

「子はかすがい」の意味

 まとめよう。女はタイミングで相手を選ぶ。ゆえに選んだ後に心境が変わったら、別の男を選び直したくなる。夫が結婚当初と何一つ変わっていなくても、関係ない。だから不倫された配偶者は理解できない。「俺の何が悪かったんだ? 俺は結婚当初から何も変わってない」。いや、貴殿は悪くない。変わったのは妻の心境だ。それだけだ。あんたは悪くない。天を呪え。

 男は、彼女が妻になることで自分のステータスがどれだけ上がるか(下がらないか)に納得できたら結婚する。結婚というイベントによって、いくら経験値がもらえて、どれだけ友達から拍手されるのかが、男の最大の関心事だ。だから妻が不倫しようが裏切ろうが、結婚生活は守りたい。作中の涼太もそういう行動を取る。もちろん、美都はそれを理解できない。

 作中、妻の不倫を知った涼太は子連れの光軌に「子はかすがいと言いますが、実際のところはどうなんでしょう? それだけではないと信じたい」という意味深なセリフを吐く。涼太の真意はともかく、実際に子どもは、あくまで原則的にだが、「離婚ストッパー」となりうる。女は母になれば、関心矢印の大部分が夫から子どもにシフトするため、夫に対する気変わりが家庭崩壊の致命傷にはならないからだ。一方の男は、仮に妻が豹変したとしても、「妻子を養っている自分」というステータスで自尊心を満たせる。これも離婚の歯止めとなりうる。

「子はかすがい」が、あまりにも前時代的すぎる考えかたであるのは百も承知。しかし子どもの存在が「タイミング」と「ステータス」の隙間を埋める補填材になっていることに、一定の妥当性はあろう。なお、美都の浮気を疑いだした涼太が美都に子作りを提案した際の彼女の返答は、「ずっといらない。子どもなんていりません私」だった。

 余談だが、数年前に実家へ帰省した歳、齢60を過ぎた母とふたりで喫茶店に入った。その際、母が父と出会った頃の話を唐突にしゃべりだしたのだが、イマイチ大恋愛だった感が伝わって来ない。そこで、父と結婚した理由を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「タイミングだね」

 母にとっての父がユニクロのフリースだったのか、エルメスのコートだったのかは知る由もない。が、少なくともここ4~50年、この国の「夫婦」のかたちは、ほとんど何も変わっていないようだ。次回帰省時には、父に同じ質問を投げてみたい。

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランス。『セーラームーン世代の社会論』(単著)、『ヤンキー マンガガイドブック』(企画・編集)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(構成/原田曜平・著)、評論誌『PLANETS』『あまちゃんメモリーズ』(共同編集)。その他の編集担当書籍は、『団地 団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著)、『成熟という檻「魔法少女まどか☆マギカ」論』(山川賢一・ 著)、『全方位型お笑いマガジン「コメ旬」』など。「サイゾー」「アニメビジエンス」などで執筆中。映画、藤子・F・不二雄、90年代文化、女子論が得意。http://inadatoyoshi.com

福山雅治は未婚女性の「王子」ではなく「同士」だった?――西島秀俊や櫻井翔etc…男性芸能人の結婚観に見る「芸能人の器」とは

――女性向けメディアを中心に活躍するエッセイスト・高山真が、サイゾーの記事を斬る。男とは、女とは、そしてメディアとは? 超刺激的カルチャー論。

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サイゾー2015年11月号

 結婚する男性芸能人のニュースが続きました。西島秀俊、向井理、福山雅治…。そうしたニュースが出るたびに、さまざまなメディアでは、「女性ファンたちがショックを受けている」という記事を書きたてました。サイゾーの連載「念力時報」は、歌人の笹公人氏の短歌と、写真家の江森康之氏による写真のマッチングで時事ネタを扱う企画。『「新しい報道」のカタチ』というサブタイトルがついた連載ですが、11月号の「念力時報」は、福山雅治の結婚をテーマに笹氏が短歌を発表していました。

「ましゃ、ましゃ、と寝言つぶやく百万の主婦の涙の伝う真夜中」

 サイゾー本誌に掲載されている八首のうち、ネット版であるサイゾーpremiumの無料版にて公開されているのはこの一首だけですが、ほかの七首のうち六首は、「福山の結婚によって精神のバランスを失う女たち」を題材にしたもの、残り一首は「福山のモテっぷりを見ながら、我が身の腹の肉をつまむ」と、「働きながら自分の手をじっと見る」石川啄木を彷彿させる短歌でした。

 サイゾーだけでなく、男性たちが想定している「女たちのショック」は、どのメディアもわりと同じです。ざっくりまとめるなら、「『福山雅治(または西島秀俊)の妻』という椅子に、自分が座れなかったことを嘆いている」というもの。しかし、けっこうな数の女友達からガッツリ話を聞いてきたうえで私が確信しているのは、彼女たち(および、彼女たちが私に話してくれた、さまざまな一般女性たち)の「ショック」の内容は、それとはかなり異なるものだ、ということです。

「結婚という形をとらなくても、内助の功なんていうアナクロなものを生活に導入しなくても、人生わたっていける…。そんな人だと勝手に思っていたんだよね」

「そう、ホントに勝手に、こちらが下駄を履かせていただけなんだけど、その下駄が結婚報道で外れたとき、『やっぱり(結婚)するよねえ』と我に返って、そんな下駄を勝手に履かせていた自分自身がちょっと恥ずかしくなったんだよね、『なんかすいません』みたいな。その恥ずかしさを隠したくて、ことさら大げさに騒いだ部分もある」

「その意味じゃ、福山雅治より西島秀俊のほうが、外れた下駄がはるかに高かったわ。『相手、プロ彼女っすか!』みたいな」

 それなりに恋人はいたけれど、結婚という形には行かなかった…。そんな女友達たちとの会話は、「30代前半の向井理はともかく、40代の福山雅治や西島秀俊は、『ダンナ候補』ではなく、『シングルでもフツーに生きていける』という『同士』としての下駄を履かせられていたのかも」と、私に強い印象を残したのです。

 このエピソードで「女はタレントにそんな妄想まで背負わせるのか」と不思議になった男性読者もいるかもしれません。が、そこに男女の差はたいしてありません。「結婚」という、生活(というか人生そのもの)が変わってしまうネタに関してさまざまな妄想を抱くのは確かに女性のほうかもしれませんが、恋愛やセックスに関して、男性たちが女性タレントに抱く妄想の質も量もかなりのものだからです。

 芸能人の人気、特に、アイドル的な芸能人の人気とは、どういうものか。ざっくりと数式にすると、こんな感じです。

『一般人が抱く妄想の濃さ・履かせる下駄の高さ』(A)×『そういった行動をする一般人の数の多さ』(B)=『A×Bを受け止められた芸能人だけが獲得する人気』(C)

 この数式で出てくる、Cの数値の大小が、そのまま「芸能人の器の大小」になります。演技力とか歌唱力といった「芸ごとの力量」があまり重要視されない日本の芸能界において、ある種のバロメーターになるもの。作り手側でそれを骨の髄まで知っているのは、「恋愛禁止」という負荷を作ってまで、プロデュースするアイドルのAの数値を高めようとした秋元康(あとになって否定したりしましたが)であり、芸能人側でそれを深く理解している人間のひとりが、『櫻井有吉アブナイ夜会』(TBS系)で、新宿2丁目のオネエに囲まれた状況を利用して、「オネエ言葉使用」というクッションを入れつつも「アタシの仕事にとって結婚ってリスクじゃない? だから考えるわよ、タイミングとかもそうだし」と語った櫻井翔です。芸能人側のトップ中のトップは、「サユリスト」という名前までついたファンたちの「清らか妄想」「聖女妄想」を、数十年にもわたって盤石の態勢で受け止めてきた吉永小百合でしょう。

 芸能人に対して、「派手な世界に入ることを自分で選んどいて、しかもその世界で勝っている人間に感情移入などできるか」と思う人も多いでしょう。が、「実力(つまり、自分の手の中のあるもの)以上に、イメージ(つまり、他者の手の中にあるもの)が重視されてしまう世界は、なかなか恐ろしいものだわ…」と、木っ端エッセイストの私は思っていたりするのです。

高山真(たかやままこと)
エッセイスト。著書に『愛は毒か 毒が愛か』(講談社)など。来年初旬に新刊発売予定。

「悲惨であることを強要されてきた……」地下アイドルライター・姫乃たまの胸の内

――9月22日、アイドルが自らその業界事情をしたためた『潜行』が発売された。小誌では、同書内に収めきれなかった、元人気AV女優・大塚 咲による撮り下ろしグラビアを特別公開! 著者・姫乃たまがあらわにした、心と体の本音とは……?

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(写真/大塚咲)

「本を出しておいてなんですが、最近、アイドルの悲惨話にみんな飽きてきてますよね(苦笑)」

 まさに、そんな“アイドルの悲惨話”を盛り込んだ初の著書『潜行』を上梓したばかりの地下アイドル・姫乃たまは、そう漏らした。

「地下アイドルの現状について書くようになって、取材をしていただく機会も増えたのですが……どこに行っても、聞かれるのはやはり、ブラックなお金の話か枕営業の実態についてばかりで。正直もう、そんなにネタがないんですよ」

 そもそも彼女の文章は、そうした業界の裏側を“暴露”するようなものではない。自身も同じ「地下アイドル」というポジションに身を置きながら、淡々と、女の子たちの自意識や承認欲求と向き合おうとしたものだ。

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(写真/大塚咲)

「AKB48以降のアイドルブームは、地下アイドルのビジネスモデルを大手の事務所が真似する形で拡大させてきましたよね。もちろん、大手が真似する分には、その質を上げるだけだったと思うのですが……地下は地下で、さまざまな事務所が参入してきて、新たなビジネスモデルを構築し続けているんです。

 中には、グループ卒業後に、“水揚げ”されて風俗嬢として開花する……といった“ビジネス地下アイドル”もいたりします。そこにはもう、女の子たちの“承認欲求”なんてないんです。私は、ビジネス地下アイドルではない、自身の“承認欲求”と戦う女の子たちの存在を知ってほしかったんですよ」

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(写真/大塚咲)

 しかし、そんな彼女の思いとは裏腹に、メディアが注目するアイドル像は偏ったものばかりだ。

「こうして文章を発信していると、テレビ局からもよく問い合わせをいただくんですが、テレビって、オファーする時点で正解が決まってるじゃないですか。必ずと言っていいほど、“売れていないのにアイドルという職業にしがみついている”キャラであることが求められるんです。

 以前、フジテレビのドキュメンタリー番組から連絡をいただいた際には、『売れてなくて、トラブルを抱えている子、問題のある子を紹介してほしい』と言われました。最近では、ライブ中にリストカットしたことで話題になった白石さくらちゃんの紹介を求める連絡がひっきりなしにありましたし。本来、地下アイドルの中でも“極端”な部分を、さもみんながそうであるかのように報じられてしまうのは、違和感があります」

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(写真/大塚咲)

 枕営業も、ファンとの個人的な金銭のやり取りも、男の取り合いも、よく耳にするアイドル業界の裏話は、確かに嘘ではない。しかし彼女のように、その様子を横目に我が道を淡々と進む女の子たちも、少なくはないのだ。

 彼女は最後に、「メディアに出演するたびに、その都度自分の価値を決めつけられたくないし、自分を切り売りしたくないんです。私、来年あたりには、普通に就職しているのかもなあ、なんて思いますよ。しがみついてるわけではないですから」と、笑った。

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(写真/大塚咲)

 となると、大塚女史があらわにした彼女の柔肌を拝めるのも、もしかしたら今のうちだけかも。難しく考えるより、まずはアイドル・姫乃たまを、ぜひとも愛でていただきたい。

(文/編集部)

【拡大画像はグラビアギャラリーでご覧いただけます。】

ひめの・たま
1993年、東京都生まれ。16歳よりフリーランスで開始した地下アイドルの活動を経て、ライター業を開始。以降、地下アイドルとしてのライブ活動を中心に、アイドルやアダルト分野などの文章を書きながら、モデル、DJ、司会など幅広く活躍中。只今、初の著書『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(小社刊/1400円+税)が発売中!

【緊急座談会】つんく♂や北斗晶、そして亡くなった川島なお美── がん専門医が語る「芸能人とがん」の裏側

――最近、がんにかかる芸能人が増えている。というよりも、がんを公表し、その闘病生活を積極的に発信する芸能人が増えている、という言い方のほうが正確だろう。しかし、本人の言葉だけのブログや、どうしても美談として報じがちなメディアの報道だけでは、その正確な姿はわかるまい。実際、そうした芸能人のことを、専門医たちはどう見ているのか? 都内の病院に勤務する3人の現役医師に語ってもらった。

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『医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法』(アスコム)

【座談会参加者】
A…大学病院勤務 中堅医師
B…総合病院勤務 中堅医師
C…総合病院勤務 中堅医師

 今年に入ってから、川島なお美(肝内胆管がん)、黒木奈々(胃がん)、今井雅之(大腸がん)、今いくよ(胃がん)、愛川欽也(肺がん)、坂東三津五郎(膵臓がん)、シーナ&ロケッツのシーナ(子宮頸がん)と、芸能人のがんによる訃報が目立っている。

 また、がんと闘う様子をメディアを通じて発信する芸能人も近年増えてきた。北斗晶は、9月に乳がんを患っていることを発表し、右乳房の全摘出手術を受け闘病中。ブログを更新し続けている。

 つんく♂は、2014年10月に喉頭がんのため声帯摘出手術を受けていたことを、15年4月に発表。現在は仕事に復帰し、発覚から手術までを綴った著書『だから、生きる。』(新潮社)を出版した。

 81年から日本人の死因第1位となっているがん。遺伝のほか、生活習慣も原因のひとつだといわれているが、健康に気を使っている人でもかかることは多々ある。当然ながらそれは、どんな有名人であっても──。

 病を押して仕事に励む姿が美談として語られがちなことも多い芸能人のがん。医師はその様子をどう見ているのか? 3人の医師がその内情を語った。

A 闘病中でも表に出るタレントが増えているね。

B 今井雅之さん、川島なお美さんは、あんな末期の状態で公の場に出ていたので、すごい勇気だと驚いた。

C 医師なら、余命1カ月もないだろうなということはわかったよね。「あの状態で出るんだ」と、かなり衝撃的だったな。

A 今井さんは「舞台に復帰したい」、川島さんは「元気です」とコメントしていたけど、あの状態から治って通常の生活に復帰するっていうのはほぼ無理……。

B 川島さんは黄疸も少しあったように思う。肝機能障害もあったんだろうな。で、激やせしてる割におなかはかなり張っていたように見えたから、肝機能悪化でおなかに水がたまっていた可能性も高いな。

A 今井さんはメディアに出るたびにどんどん痩せていって、状態がよくないのは明らかだった。経過がよければあんなふうには痩せないもん。

C 2人とも必死だったんだと思うよ。きちんとした姿勢で、よくあれだけ声を出して話すことができたよね。普通ならベッドの上でぐったりしててもおかしくない。川島さんなんか、亡くなる1週間前まで舞台に出演していたというし……。

A 本人の意向があればオープンにしていこうという価値観の変化なんだろうね。同じような末期の患者さんはとても勇気づけられたと思う。

──川島さんは、女優としての仕事に支障が出ないよう、抗がん剤治療を拒否したそうですが、どう思いますか?

B 肝内胆管がんは早期発見が難しい。そもそも固形がんは、すべて取りきらないと完全な根治はできません。川島さんは、見つかった段階ではもう取りきるのは難しかったんじゃないかと思う。再発した時点で、「根治する方法はない」と正直にドクターが話したのでは。

A そんな状態では、抗がん剤で余命を延ばせても数カ月程度だったろうしね。

C 「抗がん剤の副作用で髪が抜けるのを嫌がった」という報道があったけど、いまは髪が抜けない抗がん剤もある。副作用も、テレビドラマでよくある、毛がすべて抜け落ちて、嘔吐を繰り返して……という状態ばかりとは限らない。ただ、それでも多少気持ちは悪くなるわけで、いずれにせよ舞台に立つのは難しかったと思う。それなら、抗がん剤は拒否して舞台に立ち続けるっていうのは、取りうる選択肢のひとつだよね。

A 抗がん剤が有効かどうかはがんの種類にもよるし、一概にはいえないよね。

近藤医師に大場医師 目立つのはトンデモばかり!?

──抗がん剤といえば、元慶応義塾大学医学部専任講師で『患者よ、がんと闘うな』『抗がん剤は効かない』(共に文春文庫)の著書で知られる近藤誠医師についてはどう思いますか? がんは「無症状なら放置すべき」と主張していますが。

B いろいろツッコミどころはあるけど、すべてのがんにおいて抗がん剤を否定しているわけではないらしいから、それなら確かに一理ある。抗がん剤が有効ではないがんもあるから、患者を抗がん剤治療で追い込みすぎるのはどうかと思うし。

A 「効かなかったらこれ、それでもダメならこれ」と、患者がボロボロになっても投与する医者もいるからねえ。

C 病院によるけど、そういう判断って基本的には主治医がするものだしね。カンファレンス(会議)でも、「家族や本人が希望している」と主治医が言ったら、ほかの医師は絶対ダメとは言えないもん。

B 抗がん剤治療によって、家族と過ごす時間など失われるものがあるのは確か。だから医師は的確に判断すべき。ただ、医師が「やめましょう」と提案すると、「見放された」と感じてしまう患者さんやご家族もいる。そこにどう対処するかはケースバイケースなんだよね。

C 虎の門病院(東京都港区)みたいに、どんなに高齢で末期の患者さんでも、本人の意志に付き合って積極的治療を続けがちな病院もあるしなあ……。

A 近藤医師に対してケンカを売って盛んにメディアに出てる、東京オンコロジークリニックの大場大医師も、目立ちたがり屋っていうか、トンデモ系だよね。ああやってケンカを売ったのも、「名前を売るためでは?」と勘繰ってしまう。

B やっぱメディア受けしやすいのは個性派の医師なんだよね。彼らの主張を何度も目にすると、患者さんはそれが正しいと思ってしまう。で、目の前の主治医の言うことは聞かなくなるという……。

A せっかく治療がうまくいってるのに、途中から「あっちの治療法を試したい」と言われたりね。

B 医師の中にも、トンデモな人ってたくさんいるのにね。墓参りしろとかお祓いしろとか、自分がプロデュースしてる商品を病院の売店で売らせたりさあ。

C 川島なお美さんは、最期のほうは金の棒で体をさすっていたとか。

B そういう民間療法に走る患者さんは少なくないよね。“ナントカきのこ”とか、“ナントカ水”とか……。

C 医師の立場では、止めはしませんが、「効果はわかりません」と言うしかない。

B 最近は、温熱療法を希望する人が多い。温熱療法と抗がん剤を併用したら調子がいいって言われるんだけど、たぶん抗がん剤が効いているだけ。温熱療法が効くというデータはないし……。

A わらをもつかむ思いであらゆる治療法にチャレンジしたいという患者さんの気持ちはわかる。ただ、そこにつけ込んで、効きもしないものを売りつけるやつらは許せないね。

地下駐車場から直接病室 1泊数十万のVIPルーム

──芸能人御用達の病院なんて、実際にはあるんですか?

A 東京慈恵会医科大学付属病院(東京都港区)、聖路加国際病院(同中央区)、慶應義塾大学病院(同新宿区)あたり?

B あのあたりの病院はVIPルームを備えているから、お偉いさんはよく来る。

C 以前勤めてた某大学病院のVIPルームも豪華だったよ。ホテルのスイートルームみたいなの。地下駐車場からエレベーターで直接病室まで行けるので、ほかの患者さんに見つからずに済む。

A 当然そういった個室の差額ベッド代は高額で、病院は丸儲け。ウチのVIPルームは1日数十万円もするよ。

B でもさ、食事の内容はだいたい同じなんだよね。器が豪華なだけで(笑)。

C でもさ、有名人を診るのって、正直ストレスだよね?

B そうそう。常識的でいい人もいるけど、とんでもない要求をしてくる人も。海外でしか使えない薬を、自分で個人輸入するから使ってよ、とか無茶ぶりも。

A あ、それ慶應ではOKらしいよ。当然患者が全額負担で、医師も海外の情報をもとにとりあえず使ってみるという。

C 先進医療を希望する人も多いよね。

A なかにし礼さんは、食道がんで12年に陽子線治療を受けたってね。陽子線治療は、通常の放射線治療と違って、ピンポイントで治療できてよく効くと評判は高いけど、設備導入に80億円ほどかかるからできる病院が限られてるし、保険が利かないから300万円ほどかかる。重粒子線治療もそう。

B でも結局なかにしさんは、今年3月に再発して、背中を25センチも切る大手術を受けたって。

C 樹木希林さんは、鹿児島県にある、『抗がん剤治療のうそ』で知られる植松稔医師の病院まで行って、放射線治療装置とCT装置が一体化した「フォーカル・ユニット」という装置を用いた放射線治療を受けたとか。

B 正直、有名人が来たって病院の宣伝になるわけじゃない。医療は必ずしもうまくいくとは限らないし、特にがんなんて、亡くなる人も多い病気なわけだから。

A 前にいた病院では、芸能人とか著名人が来たら、箝口令が敷かれていたよ。電子カルテだから、表記される名前をまったく違う名前に変えて、病院内ではその名で呼ぶこともあった。

C どこの病棟に誰が入院してるか、職員なら誰でもわかっちゃうもんね。だから最近は、アクセスのたびにログインを求めるシステムになってるところも多い。

セカンドオピニオンで手術が遅れた川島なお美

B 患者さんから心づけをもらうことってある?

C めっちゃあるよ。回診のときにポケットに入れてきたり、菓子折りの中に札束が入ってたり。本当はもらっちゃいけないけど、断っても押し問答になるだけなので、もらってる。

A 数千円から、最大10万円までもらったことあるなあ。

C でも、正直もらったからといって治療内容が変わることはありえないよね。できることは同じだもん。

B 手術も、有名人だからうまい外科医が担当するということはない。その手術の難易度次第。難しい手術はベテランの外科医が担当するし、簡単なものは若手が執刀する。

A あと、有名教授だから手術がうまいってわけでもないからね。技術でなく、政治力でのし上がった人もいるから。

C それは絶対そう。メディアにも出ず偉くもないけど、実はうまいって医師はざらにいるしね。

──つんく♂さんは、喉頭がんで声帯を摘出し、「声よりも命を選んだ」とメディアで報じられました。一方、09年に亡くなった忌野清志郎さんは、同じ喉頭がんでも、声を残して手術を拒否。玄米菜食法やサイクリングなどを積極的に取り入れましたが、結局発覚から約3年で亡くなりました。

B 根治性が高いのは、やはり全部取っちゃうことなんだよね。特に進行が速いがんは、手術をためらって数カ月たつだけでも、再発率がぐっと上がってしまう。

C ただ、歌手の方なんかだと、「生きること=歌うこと」という方もいるでしょう。生き甲斐をなくしてまで生きても、その人が幸せなのかどうかはわからない。

A 医師も、昔みたいに「言う通りにしろ、でなきゃ知らん」なんていう人は少ないし、患者さんはもっと自分の希望をどんどん言うべきだよね。

B いまは、医師がちょっとでもダメな対応をすると苦情がジャンジャン来るし、それが広まって患者さんたちにそっぽを向かれると病院の経営に関わる。ただし、進行の速いがんだと、診断されたらすぐに治療を始めないといけない場合もあるのは確か。本人や家族が気持ち的にがんを受け入れるのを待ってる余裕がない場合もあるんだよね。

C そう。躊躇したら手遅れのこともある。川島さんは、セカンドオピニオンを聞くため複数の病院を転々として、手術までに半年かかったらしい。北斗さんも、7月7日に乳がんと診察されてから、決まっていた仕事をキャンセルせずにこなしてから手術することになり、9月24日に手術。2人の詳しい病状はわからないからなんとも言えないけど、その数カ月で運命が変わってしまった……というケースもたまにある。

A 医師として、「あのときにすぐに治療していれば……」と悔しい思いをすることはよくあるね。

──早期発見するには検診が大切ですが、北斗さんは毎年受けていたのに、今年見つかった時にはすでに進行していたとか。

B そういうこともよくありますよ。北斗さんの場合、乳頭の裏側にがんがあったそうで、それは結構珍しいし、実際見つけるのも難しい。年に1回検診を受けていても、進行が速ければその1年の間に大きくなることも。

C 北斗さんのケースは不運だよね。だけど、検診はしないよりは絶対にしたほうがいい。

A リンパ節転移もしているということだけど、乳がんは手術で広く取ってしまうし、ホルモン剤投与など術後療法で再発率を格段に下げることができる。乳がんは、再発したらなかなか治らない。闘病生活は長くなると思うけど、がんばってほしいな。

B 北斗さんは「5年生存率50%」という言葉が一人歩きしている感があるね。

A 乳がんは、過去のデータをもとに年齢、ステージ、病理の所見など細かい条件を定めて、国際会議で生存率を出してる。でもデータ上ではその数字でも、本人にとっては0か100。それを現時点で言われるとショックだったろうね。

C アンジェリーナ・ジョリーは、遺伝子診断で乳がんになりやすいことがわかり、13年にがんになる前に両乳房を取ってしまった。15年にも、がん予防のため卵巣、卵管を摘出。あれにはびっくりした。確かにそれが最もがんにならない方法ではあるけど。

B いかにもアメリカ的で合理的だよね。

C どこまで運命に抗うのかということなんだろうけど、日本にはなじまないだろうな。

A がんは、「乳がん」「胃がん」「大腸がん」と同じ病名がついても、個々のケースによって進行も治療の選択もまったく違う。胃がんだって、そこだけ取っちゃえば終わり、という人も少なくない。

B 一方で、若くして亡くなった黒木奈々さんのように、スキルス性胃がんなんかだと見つけることが難しく、転移もしやすい。取った時点で転移がないと診断されても、実際は見つけられなかっただけ、ということもあるし。

C ただ、昔よりも、がんのタイプに合った治療法を患者さんが選択できるようになってるのは紛れもない事実。

A 健康な人は「まさか自分ががんなんて」と思ってるだろうし、いざ診断されても、すぐにその事実を受け入れて治療法を選択するというところまでいくのは難しい。自分がどうしたいか、人生観、価値観を含めて元気なうちに固めておいたほうがいいのかもね。

B そういった意味では、芸能人のがん闘病記をただ美談にまとめるだけじゃなくて、正確な情報や最新の技術、医療現場の葛藤ももっと伝えてほしいよね。いまは2人に1人ががんになる時代。明日は我が身、だからね。

(文/安楽由紀子)

惜しまれつつ亡くなった人も……がんと闘う芸能人たち

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樹木希林
1943年生まれ、72歳。女優。2004年、乳がんが判明し摘出手術を受けたが、その後全身にがんが転移していることを明かした。


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林家木久扇
1937年生まれ、78歳。落語家。14年7月に初期の喉頭がんと診断され、笑点への出演を休止。放射線治療を受け、同年9月に復帰。


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市村正親
1949年生まれ、66歳。俳優。14年7月に初期の胃がん治療のため出演中だった舞台を降板。同年9月に復帰会見を開く。


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つんく♂
1968年生まれ、46歳。音楽プロデューサー。14年3月に喉喉がんであると公表し、同年10月に声帯を摘出していたと発表した。


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北斗晶
1967年生まれ、48歳。元プロレスラー、タレント。15年7月、乳がんであることが判明。同年9月24日、右胸の全摘出手術を行う。


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愛川欽也
1934年生まれ、15年4月15日、80歳にて没。俳優。14年に肺がんであることが判明したが、病状を伏せて自宅療養していた。


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今いくよ
1947年生まれ、2015年5月28日、67歳没。漫才師。14年9月に胃がんと診断され、同年12月に復帰、闘病しながら活動していた。


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今井雅之
1961年生まれ、15年5月28日、54歳にて没。俳優。14年12月、手術を経て復帰するも、15年4月にステージ4の大腸がんと発表。


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黒木奈々
1982年生まれ、2015年9月19日、32歳にて没。NHKのBS番組でキャスターを務めた。14年に胃がんが判明し、番組を降板。


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川島なお美
1960年生まれ、15年9月24日、54歳にて没。13年に胆管がんが判明。14年1月に摘出手術をしたものの、同年7月に再発が判明した。


ラップするホンモノの組長も実在! 【MC漢とD.O】がぶっちゃける“ラップとヤクザ”のウラ事情

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――日本版ギャングスタ・ラップの立役者である漢とD.O。前者は新宿を、後者は練馬をレペゼンしながら、共にドラッグ、バイオレンス、セックスなど、アンダーグラウンドの現実を歌ってきたラッパーである。そんな2人のダイアローグを通して、日本におけるヒップホップとヤクザのリアルな関係をあぶり出してみたい!

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(写真/岩根愛)

『ストレイト・アウタ・コンプトン』という、日本では劇場公開すら危ぶまれていた作品が、アメリカでは3週連続で興行成績1位を獲得するヒットを飛ばしている。1986年にカリフォルニア州コンプトンで結成されたラップ・グループ=N.W.Aのキャリアを描いたこの映画のタイトルを、文脈を踏まえて訳すならば「コンプトン刑務所から出たら仕返しするためにお前の家に直行するからな!」となるだろうか。そこには、アメリカの中でも特に犯罪率が高く、ギャングが横行する暴力都市として知られていた80年代後半のコンプトンのリアリティが反映されている。

 また、映画のヒットによって、N.W.Aが89年に発表した同名のデビュー作もビルボード・チャートの4位にランクインするなど再び注目されているが、そもそも、このアルバムは26年の間に累計300万枚以上を売り上げ、ギャングのアティテュードやライフスタイルについて歌う“ギャングスタ・ラップ”というジャンルを形成し、それはすでにアメリカ文化のひとつとして認められているのだ。

 ところで、ギャングを日本文化に置き換えるとチンピラ、今風に言えば半グレということになり、一方、マフィアがヤクザに当たる。ただし、アメリカのギャングには地元に密着したアウトロー集団というようなニュアンスもあって、いわゆる地回りヤクザに近いようにも思える。そして、日本でも映画『ストレイト~』は年末公開が決定したものの、ラップ・ファンにしか注目されていないということは、つまり、N.W.Aの持つリアリティが理解されていないということである。

 そこには、この国で地域社会が弱体化し、追い打ちをかけるように暴力団を排除する法律が強化され、ヤクザが身近なものでなくなったどころか、タブー化したことが関係しているだろう。あるいは、日本のラップ・ミュージックは基本的にアメリカで起こったムーヴメントをその都度翻訳することで発展してきたが、日本版ギャングスタ・ラップ=ヤクザ・ラップは一般的になっていない。例えば、現代日本におけるN.W.Aとでも言えそうなレーベル〈9SARI GROUP〉による、ギャングの抗争を模した映像作品「9SARI HEAD LINE 番外編」が、拳銃ではなく水鉄砲で撃ち合うという設定なのも、臭いものにフタをするそのような状況を皮肉っているのだ。

 それにしても、実際のところ、日本におけるヤクザとヒップホップの関係はどうなっているのか?〈9SARI GROUP〉のオーナーで、日本のストリート事情を赤裸々に歌ってきた漢と、同レーベルに所属し、バラエティからニュースまでお茶の間をにぎわせてきたD.Oに話を訊いた。

地方の繁華街を仕切る”地回り”とラッパー

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左:漢 a.k.a. GAMIの自伝『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社) 右上:2015年3月に行われた9SARI GROUPと兄弟レーベルのBLACK SWANによるツアー・ファイナルのDVD『9sari × BLACK SWAN tour final live at SHINJUKU FACE』 右下:9SARI GROUPのミックスCD『ENTER THE 9』

――漢さんの自伝『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社)には、「そのディールはトラップだった。(中略)相手は大人の不良、つまりヤクザだった。(中略)大切な仲間を巻き込むし、危険をおかして稼いだ金もすべて失った」「身内のあいだでMC漢がシャブつながりでヤクザとつるみ、本人もヤクザになったという黒い噂がささやかれていた」といったように、ヤクザに関する記述がたびたび登場しますね。

D.O(以下、D) オレらはヤクザと誤解されてるだけなんだけど、今は元極道のラッパーとか元ラッパーの極道とかって珍しくないよね。

 Y市のTというグループの初代メンバーは、あるときラップをやめて組に入って、そのうちのひとりは組長をやってる。今度、オレらは今のTのパーティに呼ばれて出るけど、ソイツが「久しぶりにマイク握りたい」と言ってるらしい。

――そういうケースは、お2人がラップを始めた90年代から見られましたか?

ジリ貧のフジテレビが社運をかけた女子アナ採用! ポスト・カトパンの新人・宮司愛海アナ局内での評判は?

「月刊サイゾー」を無料で立ち読み!

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フジテレビアナマガHPより。

 秋の改編も一段落し、今年入社の新人女子アナの評判が出揃ってきたこの時期。日本テレビの笹崎里菜アナは別格として、やはり注目を集めているのがフジテレビの3人組。なかでも宮司愛海アナには“ポストカトパン”の期待がかかっているという。予想通り出世コースの「めざましテレビアクア」のお天気キャスターに抜擢されたが、さて局内での評判は!?

「06年に入社した本田朋子、秋元優里、松尾翠以来の女子アナ3人採用が話題になっていますが、裏を返せば人材が枯渇しているということ。未だにカトパンにオファーが殺到するなか、山崎夕貴と三田友梨佳以外の若手が育っていないのが現状。視聴率が低迷して久しいフジですが、女子アナ志望の女子大生の中でも人気は急落している。テコ入れする意味もあって久しぶりに3人採用しましたが、期待通りに育つかどうか…」(フジテレビ局員)

 もちろん宮司アナが同僚の小澤陽子、新美有加両アナを差し置き未来のエース候補扱いなのは間違いないようだ。

「社員証携帯の推進啓蒙ポスターで新人アナがそれぞれモデル役となりましたが、宮司のポスターの出来栄えが素晴らしく、男性局員の間で『今年の新人はかわいい!』と盛り上がりました。アナウンス室でも特別扱いで男性アナがこぞって食事に誘っては、仕事についてレクチャーしているとか。カトパンも目をかけていて、来年4月からの『めざましテレビ』本体への昇格は規定路線となっています」(前出)

 期待倒れにならないことを願うばかりだ。

「高スペック既婚男性が都合よく離婚して自分のものに!」マンガ『姉の結婚』はアラフォー女性のポルノ!?

「サイゾーpremium」より

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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姉の結婚(1)(フラワーコミックスα)

 今回は、アラフォー女性が、東京での生活に疲れ、戻った地元で恋をするマンガ『姉の結婚』をピックアップ!

※本文中にはネタバレがあります。

 この8月、俳優・山本耕史(38歳)と女優・堀北真希(26歳)の結婚が報道された。ここで特に話題になったのが、「直筆の手紙40通を手渡し」「指輪を持って新幹線で待ち構える」といった、山本の熱烈アプローチである。その結果、ふたりは「交際0日で結婚」に至ったという……なんだそのドリーミィ(夢心地)な超展開は。

 このニュースに、筆者周囲のアラフォー独身男性は色めき立った。「ストーカーアプローチって有効なんだ」「頑張れば俺たちでも20代狙えるかも」。いい年こいて、こちらは別の意味でドリーミィ甚だしいが、それに負けず劣らずドリーミィな文化系アラフォー独女の耳目を集めたマンガがある。『姉の結婚』(西炯子・著/全8巻)だ。

 本作は2012年「このマンガがすごい!」のオンナ編4位、「全国書店員が選んだおすすめコミック2012」では第5位を獲得した人気作。20~30代向け女性向けコミック誌「月刊フラワーズ」(小学館)誌上に、2010年から2014年まで連載された。

 主人公は、物語開始時点で40歳目前の独身女性・岩谷ヨリ。東京で不倫などを一通り経験して疲れ果て、地元の図書館に勤務する身だ。仕事ができ、物書きの才能もある文系の才媛。ただし女子力は低く、着るものにも無頓着だが、スレンダーな隠れ美人である。地味系の文化系独女読者がドリーミィに自己を投影できるギリ上限いっぱいの、絶妙な人物設定といえよう。

 結末をいきなりネタバレすると、ヨリは物語序盤で心をつかまれた超イケメン・超優秀な精神科医の既婚男性(地元の同級生)への愛がどんどん深まり、最後にはめでたく結ばれる。

 実は、ヨリには物語の途中でいくつも別の選択肢が用意されていた。堅実な地元新聞記者に求婚されたこともあれば、東京で文筆家になるチャンスもあった。辛い恋で傷つくのはもうたくさん、これから穏やかな人生を送るためには、このあたりが落とし所では?――などと逡巡しまくったヨリだが、結局、もっとも愛した相手とゴールイン。絵に描いたようなハッピーエンドを手にする。まさに現代のお伽話だ。

 本作で描写されるヨリのストイックな諦念とキレキレの達観、しかしそれでも捨て去れない「真の愛」に対する一縷の望み。このトライアングルバランスの描写は絶妙だ。諦めたり、達観したり、ウェットになったり。3方向に揺れ続けるヨリの心は、30代後半独女のヒリヒリした心情を克明に代弁していた。

 ただし、設定やストーリーがあまりにドリーミィすぎると揶揄する向きも、少なからずあった。「ブサイクだった同級生がイケメン化する設定に現実感がない」「あんなに若々しいアラフォーは存在しない」「展開がファンタジーすぎる」などなど。

 しかし、そのようなリアリティの欠如など、読者女性は百も承知である。なぜなら本作は、ヨリと同世代の30代後半文化系独女(およびその予備軍)たちにとって、よくできたポルノ、要はエロ本だからだ。彼女たちは、本作がファンタジーであることをわかった上で、自分を投影したヨリが究極の愛を獲得するプロセスに、心の底から悶絶する。

「最高最強スペックの妻持ちイケメンが、離婚までしてアラフォーの自分と結婚してくれる」

 なんというご都合主義、なんというドリーミィな超展開だろう。「交際0日婚」なんぞ、ゆうに凌駕している。男性向けエロマンガで、「突然現れた美少女がものすごくエロくて、うだつのあがらない主人公にセックスしてぇとねだる」のと、たいして変わらない。

 しかし結果的に充足感が味わえるなら、プロセスがファンタジーだろうがドリーミィだろうが嘘臭かろうが、問題はない。『姉の結婚』の女性読者は、読後に昇天するほどのカタルシスを得るし、エロマンガの男性読者は、あられもない美少女の姿に昇天するほどの(以下略)。

 いい年こいた独身男性がエロマンガばかり読んで快適なファンタジーに囲まれていると婚期が遅れるのと同様に、30代後半独女がポルノチックなファンタジーに執心しすぎると婚活が修羅道化するかどうかは、エビデンスがないのでなんとも言えない。

 しかし、ここで『姉の結婚』と比較しておきたい作品がある。『姉の結婚』と同時期に、同じ「月刊フラワーズ」で連載されていた超人気作品『失恋ショコラティエ』(水城せとな・著/全9巻)だ。第36回講談社漫画賞の少女部門を受賞。2014年には松本潤、石原さとみのキャストで月9ドラマ化もされたので、知っている方も多いだろう。

 主人公は、天才的ショコラティエ(チョコレート職人)の小動爽太(こゆるぎ・そうた)、25歳。彼が、高校時代から想いを寄せる女子力スーパーハイなキラキラ女子・サエコ(26歳)と結ばれたい一心で、ショコラティエとして名を成していく物語だ。ただし、サエコは人妻である。

『姉の結婚』も『失恋ショコラティエ』も、「主人公が既婚者に想いを寄せている」という点で共通している。しかし、『失恋ショコラティエ』の結末で、爽太とサエコは結ばれない。サエコは一時爽太に惹かれるも、離婚には踏み切らないのだ。爽太は妥協し、セフレ(!)関係を続けていたモデルの女を選ぶ。

 そもそも『失恋ショコラティエ』では、ほぼ20代で固められたメイン登場人物の大半が、「最初から好きだった人」と結ばれない。皆、届かない想いを自分の中で冷静に消化して別の相手とくっつくか、ひとりぼっちを受け入れる。

『失恋ショコラティエ』は、「これくらいでいいや」的な幸せの落としどころ見つけました感が半端ない。『姉の結婚』のドリーミィ感とは対象的である。ヨリのように、既婚者を離婚させてまで結ばれる超展開なんぞ、とんでもない。現実ときっちり折り合いをつけた、スーパービターな結末。ホットなポルノとは程遠い、ドライ極まりない現実的なラストが叩きつけられる。

 快適でドリーミィなポルノだった『姉の結婚』と、射精後の賢者タイムの如き現実路線を歩んだ『失恋ショコラティエ』。不惑であるはずのアラフォー女性が絵に描いたような理想を捨てきれない一方、人間としてはまだ成熟途上であるはずの20代女性たちは現実を黙って受け入れる――。

 この対照的な構図は、むしろ現実世界においてリアリティがある。

「手近な幸せ、そこそこの相手」では手を打てないアラフォー独女が婚活修羅道を歩むのを尻目に、「さとり世代」とも称され将来に過剰な期待を抱かない20代独女は、手持ちのコマで早めに手を打っているからだ。筆者の周囲でも、大卒就職後2〜3年でサクッと結婚する都内在住の文化系女子が、ちょくちょく現れ始めている。なお、彼女たちにことさら専業主婦願望はない。

 実際、新成人女性の42.8パーセントが25歳までに結婚したいと考えているというデータがある。30歳までなら97パーセントだそうだ(2015年、オーネット調べ)。20代女性の早婚願望がここ数年高まりつつあるという分析も、多方面で耳にする。

 というわけで、結婚願望のある独身の男性諸氏としては、自身の年齢、スペック、相手に求める人生観を吟味検討のうえ、ベストオブベストなハッピーエンド以外は認めない『姉の結婚』系30代後半女子と、理想の追求を放棄したスーパー現実主義者の『失恋ショコラティエ』系20代女子、どちら方面に重点アプローチするかを、早々に決められたい。

 なお、イケメン精神科医でも天才ショコラティエでもない筆者のアラフォー友人男性諸君におかれては、年内めどでミーティングを開催するので早急に予定を調整されたし。その前に『姉の結婚』と『失恋ショコラティエ』は必ず読んでおくこと。以上、業務連絡にて。

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランス。『セーラームーン世代の社会論』(単著)、『ヤンキー マンガガイドブック』(企画・編集)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(構成/原田曜平・著)、評論誌『PLANETS』『あまちゃんメモリーズ』(共同編集)。その他の編集担当書籍は、『団地 団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著)、『成熟という檻「魔法少女まどか☆マギカ」論』(山川賢一・ 著)、『全方位型お笑いマガジン「コメ旬」』など。「サイゾー」「アニメビジエンス」などで執筆中。映画、藤子・F・不二雄、90年代文化、女子論が得意。http://inadatoyoshi.com

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