ヤバさすら感じる三十路女の妄想が冷たい笑いを導き出す アキヤマ香『片恋グルメ日記』
『片恋グルメ日記(1)』(双葉社)
絵柄は少女マンガっぽいのに、ぶっ飛んだ設定の作品を描きまくる、アキヤマ香氏。
『ぼくらの17-ON!』(双葉社)は、俳句青春マンガという、新しすぎるジャンルの作品だった。このたび第1巻が発売された『片恋グルメ日記』(双葉社)も、これまた想像の斜め上をゆく作品であった!
タイトルからわかるとおり、この作品は食事系マンガである。しかし、けっしてうんちくを語ったり、店の雰囲気を情感たっぷりに描く系の作品ではない。ましてや、食事をして人生の問題が解決したりなんてすることもない。
この作品における食事とは、ともすれば、犯罪まがいの気持ち悪いストーキング行為なのである。
物語のヒロイン・所まどかは33歳の編集者。担当しているのは、小中学生向けの少女マンガであるために、年々恋愛スキルが落ちているのを実感する三十路だ。
そんな、まどかが憧れているのは、モテモテの営業部員・八角さん。40歳独身のイケメン男子に、社内の女性たちはみんな好意を抱いている。でも、まどかの雑誌は担当していないので、接点もなければ話したこともない。
そんな彼女にアドバイスをくれたのは、担当しているオネエなマンガ家・曲家先生。
先生のアドバイスとは「食事ストーキング」。先生いわく、同じものを食べることによって、男を感じるという行為なのだという。
ここで明らかにされるのが、まどかの食生活。33歳なのに、いまだに主食がお菓子なのである。
いや、確かに食事らしい食事を、ほとんどしない女子っていうのは実在するものである。だいたい食事というのが、カフェでケーキや甘いパンを食べるものになっちゃっているというヤツだ。このタイプの人って、だいたい、何か悩み事でもあるのかのように、つまんなそうに食事をするんだけど……そんなヒロインを描こうとするアキヤマ氏は、やっぱり冴えている。
そんなわけで、とにかく、まどかは食スキルが低い。牛丼屋や立ち食い蕎麦屋はもちろん、定食屋すら、ほぼ経験なし。うん、30歳過ぎて未経験というのは、さすがに微妙な気持ち悪さが……。
そんな敷居の高い店に入り、憧れの八角さんが食べたのと同じものを口にした途端に、妄想が始まるのである。
この妄想が、この人大丈夫か感満載なのが、本作のポイント。もともと、少女マンガ的なタッチで、少女マンガ的な八角さんとの壁ドン的女子の妄想が描かれるのである。少女マンガであればキュンキュンするシーンだが、この作品の場合、多くの読者は笑いながらドン引きしてしまうだろう。
まさに「所変われば品変わる」というところか。ちょっと舞台を変化させただけで、こんなキテレツな感覚を得られるというところに気づいたアキヤマ氏のアイデアは素晴らしい。
何より、二郎系ラーメンを食べる回では、事後に三十路には背脂はキツイという展開の待っているあたり、リアリティを追求していると感じられるだろう。
でも、やっぱり男女問わず、幾つになっても好きな相手の妄想は楽しいものなんだろうな。
(文=是枝了以)