「今井雅之と献身的な黒子妻の夫婦愛」…訃報からの美談という予定調和に違和感
大腸がんの闘病を明かしていた俳優の今井雅之(享年54)が、5月28日、亡くなった。今週発売の「女性自身」(光文社)「週刊女性」(主婦と生活社)はそろって、彼を看取った妻・Aさんの愛を称える内容の記事を掲載している。前者は【“奇跡の6カ月”を支えた献身妻の「悲しきウソ!」】、後者は【生涯役者を支えた妻の“黒子愛”】。別の週刊誌記事では、「Aさんは清楚な感じの女性で決して出しゃばらないタイプ」とも。
1998年に今井と17歳年下モデル女性との不倫が写真週刊誌でスクープされたが、離婚には発展せず。今年4月末、今井が病気を公表した記者会見では、Aさんから「浮気できるくらい元気になって」と激励されたことも明かしていた。
もちろん闘病生活に付き添い、最期を看取ったAさんが心身ともに苦労したであろうことは察するに余りある。しかし一方で、何でもかんでも夫婦愛の美談に押し込めてしまうのはどうなのか……という疑問も湧かないではない。というのも、今井さんのガールフレンドである1人の女性が、Instagramで彼との思い出を詳細に綴ったからである。
◎ポリアモラスな関係とは?
その女性はユニセックスな魅力を持つモデルの赤坂沙世(27)。ファッション誌では「装苑」(文化出版局)「GINZA」(マガジンハウス)などで活躍しており、フォトグラファー、アートディレクターでもある。彼女はインスタ上で今井雅之への追悼の意を表した。彼女には女性の恋人がいて、その女性から今井を紹介され、3人で愛を交わすようになったという。その記述を読み、「なるほど魅力的な男性だったのだな」と思わされた。とても長い文章だが、一部を抜粋させてもらう。
「彼等は私の望むポリアモラスな関係を現実にしてくれた。彼には彼女になれとか言われたが、そんなことより、三人のこの関係が楽しかった」
「三人でセックスを終えた後になお(註:赤坂の恋人)が死んでもいいくらい幸せだと言って、その時に私はセックス以上の幸せを感じた。彼と私で二人で添い寝するのも大好きだった。私と彼の仕事柄か、緊張感や孤独、圧迫感など、似た感情を感じるようで、私達二人で抱きしめあって寝る事がそれらを解消した。彼にきついくらい抱かれて朝まで離れず寝るのは私の何かを確実にほぐしていった。そして彼は私達のポリアモラスなスタイルや活動をよく理解して応援していた」
ポリアモラス(ポリアモリー)とは、「複数恋愛」と呼ばれることもある。同時に複数の親密な関係性を築くライフスタイルのことで、現代社会で一般的とされる「1対1の恋愛・婚姻関係」(モノアモリー、モノガミー)にしてみれば、性に奔放なだけのように見えるだろう。傍から見れば彼らの関係は“乱交”であり、かつ“不倫”と認識されるかもしれない。
実際、ネット上では「奥さんの気持ちを考えたら、愛人にこんな暴露されてかわいそう」「亡くなってしまった人の事をあ~だ、こ~だ言うのも何か寂しいわよ」と赤坂に対して批判的な声が目立つ。しかし今井がそうした思想の持ち主なら、20代の頃からずっと妻であったAさんもすべて知っていたのかもしれない。そういう夫婦の形だったのだろうと理解できる。勝手に周辺の人間が「愛人はインモラルだ」「最後に大切だったのは夫婦愛だ」と批評するようなことでもない。だから彼らの関係が週刊誌上などで「不倫!」と取り沙汰されたとしても、それはそれで違和感である。
言いたいのは、「糟糠の妻」「闘病支えた献身愛」、はたまた「泥沼不倫」といった、それこそ“紋切り型”の言葉によって表現し得ない男女の関係性などいくらでもあるということだ。今井雅之が実際にどんな男性であったのかはきっと、醜聞や美談を読みたい読者にとってはどうでもいいことなのだろうし、いきなり「今井さんはポリアモラスで」と提示されても「???」と困惑するか「気持ち悪い/けしからん」と顔をしかめるかの反応が多数であるだろう。だとしても用意された 予定調和の“イメージ”に押し込めようとすること、そしてそれをさも当たり前のように受け止めてしまうことは、とても陳腐でくだらなくないだろうか?
ちなみに今井はかつてweb上で開いていた「熱血相談室」で、既婚男性と恋愛中だという女性相談者からの「不倫を上手に終わらせたい」という相談に対して、次のように回答している。
僕は“不倫”という言葉は使いません。“アナザー・ラブ(もうひとつの愛)”と呼んでるんです。好きになった相手がたまたま結婚していただけであって、愛情には変わりはないからね。ただし、そこにはルールというものがある。「おまえを好きになってしまった。だけど、ヨメはんのことを大切にしたい。絶対に家庭には影響を与えたくないんだ。それでいいなら付き合おう」というような、ね。それでいいじゃん。それでも愛は成立すると僕は思うし。
(哀辛悲々)