キムタクはやっぱりキムタクだった。ドロドロの人間模様がまだ足りない『A LIFE~愛しき人~』/第一話レビュー
1月15日に『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)の放送が始まった。放送前に、公式サイトの「愛、欲望、友情、嫉妬、プライドが渦巻く中、ただ職人外科医として、決して諦めることなく、不器用ながら一途に患者と向き合う彼の生き様は、病院で働く人々に問いかけていく。『本当の医療とは何なのか』と…このドラマは“愛しき人”のたったひとつの“命”、 かけがえのない“人生”を巡って繰り広げられるヒューマンラブストーリーだ」をみて、一体誰が見るのだろう? と思っていたのだが、初回の平均視聴率は14.2%とそこそこ順調な滑り出しのようだ。
主人公は木村拓哉演じる天才外科医・沖田一光。10年前からアメリカ・シアトルで修行していた沖田が、かつての勤務先である壇上記念病院の院長・壇上虎之助(柄本明)に自身の心臓手術の担当医として呼び出され、日本に帰国する。日本では前例のない手術を行った沖田だが、術後、人工弁が逆流を起こし虎之助は意識を失ってしまう。再度手術を提案する沖田に対して「リスクが高すぎる」と強く反対されるものの、虎之助の娘で小児外科医の壇上深冬(竹内裕子)が沖田の強い意志に打たれ手術を承諾、無事成功を収める、というのが初回のストーリーだ。
沖田は自ら進んでシアトルに旅立ったわけではなかった。実は小学校時代からの親友・壇上壮大(浅野忠信)の策略によって、病院を追い出されていたのだ(そのことを沖田は知らない)。深冬と結婚し副院長の座に上り詰めた壮大だが、もともと深冬はアメリカに旅立つ前の沖田と付き合っていた。現時点ではっきりとした描写はないが、おそらく壮大は、深冬を奪うために沖田をアメリカに追い出したのだろう(院長が沖田の腕を買っていたことに危機感を覚えたためなのかもしれない)。ちなみにこの壮大、壇上記念病院の顧問弁護士・榊原実梨(菜々緒)と不倫している。
病院経営を優先する壮大と「病院は患者のためにある」と考える虎之助はソリが合わず対立している。病院は壮大寄りの雰囲気があるようで、虎之助の味方は少ない。第一外科部長の羽村圭吾(及川光博)は、利己的な人物として描かれ、虎之助よりは壮大に近い人物に見える。父親が関東外科医学会会長の、心臓血管外科医・井川颯太(松山ケンイチ)は、良くも悪くも素朴ながらプライドは高いという典型的お坊ちゃんで非常に頼りない。現時点ではどちらかというと壮大、あるいは羽村よりのようだが、沖田の手術をみて感銘を受けた描写もあり、変化の可能性を感じさせる人物でもある。その他の医師は日和見で、「院長は考え方が古い」とどこか冷めた態度でいる。
少し異質な存在なのが柴田由紀(木村文乃)だろう。手術の際に沖田が指示を出す前から道具を用意しておくような一流のオペナースである柴田は、井川からのアプローチを相手にしないクールな人物として描かれる一方で、困難な手術について沖田と共にアイディアを考え、光明が差したときにハイタッチするような人物でもある。沖田に対して「こんなところにいるべきではない」と意見するシーンからは、柴田自身、しがらみの多い日本の病院にうんざりしていることが伺える。女性がゆえに実力を発揮できない、という経験をしているのかもしれない。柴田が沖田に対して好意を寄せるのか、それとも実力のある者同士のタッグとなるのか気になるところだ。
本作のヒロインである深冬は、小児外科医として働きながら、娘のために炊事をしている家族思いの人物として描かれている。壮大の不倫に気づいているのかどうかはまだわからない。夕食の準備をしている最中に、帰宅した壮大から「外で食べてきた」と言われ戸惑うシーンがあり、夫婦関係が冷めつつあることは確かのようだ。基本的に沖田に対しては敬語で会話しており、一定の距離をとろうとはしているようだが、沖田への思いをまだ胸に秘めているのかも現時点では定かではない(好意を寄せてないわけがないが)。すでに予告されているように、脳に腫瘍が見つかっており、沖田がメスを取ることも決まっている。二人の関係性が変わるのは思った以上に早い段階でくるのかもしれない。
そして肝心の沖田像だが、非常に木村拓哉らしいキャラクターであまり説明はいらないかもしれない。クールでそっけない天才だが、アツさと信念も持っている。そして時々感情をあらわにするが、粗野なところはあまりない。印象深かったのが、一回目の手術に同意した深冬が、「治るっていったじゃない」「院長と副院長は対立しながらもうまくやってきた。いまさらに戻ってこないで」と二回目の手術を提案する沖田にぶつかってくる中、それを無視して手術方法の思案に戻るシーンだ。深冬に対して感情的にぶつかるでもなく、理詰めで説き伏せるでもなく、ただ自分がやるべきことを淡々とこなす沖田が、今後のドラマ展開でどう感情を露呈させていくのか見ものだ。
主要な登場人物を見る限り、本ドラマは立場を異にする人びとが、互いに策略を張り巡らすダイナミックな展開になるわけではなさそうだ。やはり沖田らが小賢しく策を講じる姿はイメージしにくい。それぞれに思惑はあるだろうし、壮大、井川、羽村、榊原あたりはいろいろ策を練るのだろうが、沖田が強い意志をもって仕事を遂行し、それらをねじ伏せていくというキムタクドラマらしい展開になると予想している。
前クールの医療ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)は昨年の民放連続ドラマ1位をとった。『A LIFE~愛しき人~』は初回の好視聴率をどれほど維持できるだろうか。ドロドロの人間模様が期待されるドラマではあるが、今のところまだまだ薄味だなという感想を持った初回だった。
(ドラマ班:デッチン)