「温泉盗撮」女性を撮ったら犯罪、男性なら笑い話? サンド伊達の「脱衣所で全裸盗撮された」告白はなぜ笑えるネタなのか
サンドウィッチマンの伊達みきお(41)が、3月8日『バイキング』(フジテレビ系)で、温泉に行った際、全裸を盗撮されたことを明かした。この日の放送は、隠し撮り写真のネット流出被害がひとつの議題。その流れで伊達が「温泉で着替えてて、全裸の時にカシャってやられたことあります」語ったのである。
脱衣所で服を脱いだときにスマホカメラらしきシャッター音がし、「明らかに撮られたんだけど、誰が撮ったのかよく分からなかった」と、撮影者を特定することができなかったという。結局この話題は「個人で楽しむのならいいんですけれど」とつぶやく伊達に、出演者らが「それはない」と突っ込み、笑いに昇華されていた。
しかし、全く笑えない。ゲイネタで乗り切るところも笑えないし、お笑い芸人だし、男性だし、ルックスから推し量る“裸の価値”が低い……ゆえに「たいしたことじゃない」と認識し、その認識を共有して笑い話にしてしまうあたり、実にマッチョな価値観だと思う。脱衣所で相手の了承なく裸の画像を撮影するのはまぎれもなく盗撮行為であり、笑って済ませてよいものではない。そもそも盗撮は刑法で規定されておらず条例の罰則も軽いのだが、刑罰の重さについては本稿の趣旨から外れるのでここでは触れない。提起したいのは、「男性の肉体」の権利意識について、男性自身も、また女性も、あまりにもライトに扱いすぎているのではないか、ということである。
この放送内容についてネットでも「伊達は目が可愛いからしゃーない」など、冗談めいたコメントが多いが、「まだ(盗撮画像がネットに)出回ってないってことはまさしく個人で楽しんでるんだろう 不幸中の幸いというかなんというか」と同情(?)を寄せる声もある。
が、被害に遭ったのが女性であればここで笑い話にはできないはずだ。伊達が脱衣所で撮影されたということは、コメントの通り、撮影者個人の性的な欲求のためであろう。はたまた、伊達が有名タレントであることから、性的指向ではなく興味本位で撮ってしまったのかもしれない。いずれにしろ、勝手に撮影して良いものではない。
常々思うが、男性が性的に被害をこうむることに対して、日本は寛容すぎるのではないか? これを男性への性差別と捉えることもできる。
もちろん、女性の性被害と比較すれば、男性の性被害は件数が多くない。だが男性は「男である」ことが邪魔して、被害を表面化することが困難であったり、たとえ被害を告白しても「痴女に襲われるなんて良いじゃん」と一種のプレイのようにみなされて負った傷の深刻さが理解されずセカンドレイプされるケースなどもあるだろう。後者については「男はいつでも大抵の女とヤりたい生き物」というおかしな認識も重なっているかもしれない。飲み会で男性が裸にされたりしても、特に問題にはならない。男性の肉体は股間さえ隠せばあとは人前に晒してもセクシャルなものと認められにくく、セクハラ被害に遭ったとしても申告しにくい社会環境が醸成されている。また、体というものは誰もが持つものだが、すべて持ち主のプライベートな領域である。女性の体に対して、許可なく触ったり裸を撮ったりしてはNGなことはさすがに周知されているが(それでも痴漢などの犯罪は消滅しないが)、男性の体に対する意識は、いまだに低いままではないだろうか。
性別と場所が変わればここまで変わるという例がある。3月8日にBBCが報じたのは、米フォックス・スポーツのエリン・アンドリュース記者(37)が7日、ホテル室内で裸でいたところを盗撮されビデオがインターネットに流出した事件で、損害賠償金5500万ドル(約62億円)を認められ勝訴したというニュースだ。アンドリュースさんは2008年、ホテルのドアに開けられたのぞき穴から、ストーカーのマイケル・デイビッド・バレット被告に盗撮された。被告は後にビデオをインターネットに掲載したのである。アンドリュースさんはツイッターに「世界中の被害者からの支援を光栄に思います。皆さんが手を差し伸べてくれたおかげで、私は立ち上がり、人の安全とプライバシー保護を職務としているはずの相手の責任を問いただすことができました」と今回の判決を受けてコメントを発表している。
BBCがこれを報じたのと同じ日に『バイキング』が放送され、男性による男性の盗撮被害を笑い話にしている。時代遅れも甚だしい。番組制作陣にもやはり、女の裸はダメだけど男の裸は別にいいだろう……という感覚があるのだろうか。しかし男性が性的被害に遭うことを問題視せずに笑い飛ばすのは、「性におおらかな風土」でもなんでもなく、男性の体に対する権利意識の低さを示していることに他ならない。なによりまず、男性たち自身が、自らの体は自分だけのものであり、許可なく触られたり脱がされたり撮られたりすることはおかしいと認識することだが、「俺らは別に気にしないからいーよ」「自分の裸に価値なんてないし(笑)」等々、無頓着なままである限り、意識は変わらないだろう。
(ブログウォッチャー京子)