あなたが持っている“お得ポイント”を国にお知らせするお手紙 「年末調整」の仕組みを平たく解説!
こんにちは。ファイナンシャルおねえさんこと、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。
秋が深まる11月。職場ではそろそろ、あの横長で表だらけの「年末調整」の紙が配られる時期ではないでしょうか? 会社で働いている以上、この横長の紙は毎年現れます。名前、扶養家族の有無、保険料など、いろいろ書かされるこの作業にはいったいどんな意味があるのか。お給料で生き抜いているみなさんだからこそ、年末調整の正体をしっかり知っておきましょう。ということで今回は、「年末調整」の仕組みをゼロから平たく解説していきます。
◎毎月引かれる所得税はどう決まる?
毎月会社から渡される給与明細を見ると、お給料が勝手に差し引かれていることに気が付くと思います。以前お話したように、この仕組みは「天引き」というもので、お給料からは「社会保険料」と「税金(所得税・住民税)」が差し引かれています。この「天引き」のうちの「所得税」が今回お話しする「年末調整」に深く関係します。
お給料から差し引かれる所得税の金額は、「源泉徴収税額表」という数字だらけの一覧表から計算されます。皆さんが使用することはめったにないかと思いますが、この表には、あなたが月給からどのくらい所得税を天引きされるか(源泉徴収税額)が書かれています。例えば「独り身なら○○円を源泉徴収しましょう」とか、「扶養している親族が1人いれば○○円を」といったように、細かくパターンに分けされています(「源泉徴収」は所得税の天引きのことでしたね)。
月給が多ければ源泉徴収の額は多くなりますし、また扶養親族が多ければ「なかなか生活が大変でしょう」ということで差し引かれる額が少なくなっています。多く差し引かれるパターンは、給料が高くて独り身の人ということになりますね。
◎とりあえず多めに引かれている所得税
所得税は、月収と扶養している親族だけで決まるわけではありません。また「確かに2人扶養していたけど、今年に離婚して今は独り身。そのことを会社に言ってない……」という場合、源泉徴収される金額はどうなるのでしょうか?
月給や扶養親族以外にも所得税に影響することはあります。例えば、生命保険に入っていたら税金が安くなるという「生命保険料控除」がその一例です。それに一年という期間の中にはいろんなことが起こります。生命保険に初めて加入すれば、「生命保険料控除」の対象になりますし、解約すればもちろん、控除の対象から外れることになります。結婚した、離婚した、妻がフルタイムで仕事に復帰したなどで、扶養親族の数が増えたり減ったりすることだって当然あるでしょう。
しかし、そうした従業員の細かい変化を会社はいちいち把握しきれません。ということで、毎月実際の所得税よりもちょっと高く設定された“とりあえず”の金額を源泉徴収しています。では多めに差し引かれた所得税はどうなるのでしょう? そこで登場するのが「年末調整」です。
所得税は1月から12月の1年間を対象に計算します。そしてその計算は、たとえ一年の間にいろいろなことが起こっても、すべて12月末日の状況で判断することになっています。ですから12月末日が過ぎないと正しい所得税の金額は計算できません。だからこそ会社は“とりあえず”の金額を源泉徴収していたわけです。「年末調整」のあの紙が、春でも夏でもなく「今年も残りあと少しなんだねぇ」としみじみするこの時期に渡される理由は、「年末も近づいてきたし、今年起こることはもうほとんど起こったでしょ! その辺のことも書いておいてね。そしたらあとで、どのくらい余計に所得税を取り過ぎたか計算しておくからさ!」ということなんですね。
◎年末調整で所得税のお得ポイントを探せ!
ここまでの話をざっくりまとめると、「年末調整」は、「とりあえずちょい高な所得税をお給料から引いておいたよ。あとで、お得ポイントを計算し直して返すから、この紙書いてね!」という作業なんです。
お得ポイントとは、以前解説した「配偶者控除」とか、高校生の子どもがいれば「扶養控除」とか、生命保険に入っていたら「生命保険料控除」などのこと。これらを全部ひっくるめて「所得控除」といいます。これらに当てはまると所得税が安くなって、あとで返ってくるお金が増えます。年末調整の紙を正しく書くのは、自分が持っているお得ポイントをしっかり伝える大事なことなのです。
あの横長の紙からお得ポイントをあぶり出して、正しい税金を計算し直し、“とりあえず”多く差し引かれていた金額が春に振り込まれる(還付)という仕組みです。ここまで解説すれば、「年末調整」というネーミングにも納得できるのではないでしょうか。意外とそのまんま、ですよね(笑)。
いってみれば、年末調整とは、会社員の確定申告。毎月1円も差し引かれず、後で1年分の所得税を払うよりも、事前にちょっと多く差し引いてもらって後で戻ってくる方が嬉しいという人が大半でしょうから、なかなかうまくできています。
年末調整の後にお得ポイントが発生した人や、その年に住宅ローンを組んだ人、医療費が高額にかかった人などもお得ポイントが発生する可能性があるのですが、年末調整ではちょっと手に負えないので、会社ではなく税務署に直接お得ポイントを伝えるため「確定申告」をしましょう。」
■ 川部紀子
1973年北海道生まれ。ファイナンシャルプランナー(CFP® 1級FP技能士)・社会保険労務士。大手生命保険会社のセールスレディとして8年間勤務。その間、父ががんに罹り障害者の母を残し他界。親友3人といとこも他界。自身もがんの疑いで入院。母の介護認定を機に27歳にしてバリアフリーマンションを購入。生死とお金に翻弄される20代を過ごし、生きるためのお金と知識の必要性を痛感する。保険以外の知識も広めるべくFPとして30歳で起業。後に社労士資格も取得し、現在「FP・社労士事務所川部商店」代表。お金に関するキャリアは20年を超えた。セミナーに力を入れており講師依頼は年間約200回。受講者も3万人超。テレビ、ラジオ、新聞等メディア出演も多数。