と学会が「嫌韓・嫌中論争」に参戦! トンデモ本から読み解く、“真実”の日中韓関係と歴史
『日・韓・中 トンデモ本の世界』(サイゾー)
世の中、嫌韓・嫌中ブームである。書店へ行くと、韓国と中国の悪口本が山のように出ている。売れているのだ。中韓の日本嫌いは凄まじいが、これまではネット以外でこの2カ国の反日文化を知ることは難しかった。その実態を知らせるべく多くの本が書かれている。
しかし反日の実態がわかればわかるほど、疑問が浮かぶ。
彼らの反日は、日本人の知る日本やアジアの歴史とはあまりにもかけ離れている。従軍慰安婦や領土問題などの高度に政治的な案件はともかく、桜や剣道の起源は韓国だという韓国起源説、いわゆるウリジナルや日本を軍国主義化していると批判しながらチベットやウイグルを弾圧する中国の姿勢は、日本人からすると意味不明、トンデモな話である。
しかもそうした現状を知っているだろう日本の政治家や財界の大物たちが、過剰なほど中韓に肩入れをしているのだ。日本にもまた、トンデモない価値観の人たちがいるらしい。
トンデモのことはトンデモ本に訊け! 中韓を巡るトンデモ言説の真相を、日・韓・中3カ国のトンデモ本から解き明かそうとしたのが『日・韓・中 トンデモ本の世界』(と学会、水野俊平、百元籠羊/サイゾー刊)である。
韓国で政治問題にまで発展した超絶“嫌日”本(『悲しい日本人』)、悪名高き統一教会の教祖による丸ごと一冊自画自賛本(『平和を愛する世界人として 文鮮明自伝』)、敵が真っ赤っかな韓国の反北朝鮮アニメ(『ロボット王シャーク』)、さらには幸福の科学の教祖・大川隆法が北朝鮮の現在の首領・金正恩の守護霊を呼び出し、秘密のベールに隠された北朝鮮の「真実」を暴き出した一冊(『金正恩の本心直撃!』)など日・韓・中にまたがって、互いに互いがトンデモないことになっている本や映画を発掘し、その裏側にある民族的メンタリティを掘り下げる。そこでは歪んだ妄想が合わせ鏡のように増幅し合い、もう笑うしかない異様な価値観を生み出しているのだ。
『平和を愛する世界人として 文鮮明自伝』のパートを読むと、韓国人の唱える反日が理屈ではなく、宗教であることがよくわかる。
合同結婚式や開運壺売りで社会問題化した統一教会。彼らは、韓国を「防共の砦(とりで)」とする西側諸国の戦略に乗って勢力を拡大したが、そのバックに故・笹川良一など日本の右派がいたことは公然の秘密だろう。しかしその教祖の故・文鮮明が日本で早稲田高等工学校を卒業していたことや、反共を唱えながらも北朝鮮出身だったことは、評者はこの解説で初めて知った。
彼は韓国の反日思想を、神からの教えとして信者に伝えているらしい。『平和を愛する世界人として 文鮮明自伝』によると、日本は海に浮かぶ島国なので女性を表し、「世界の中でエバ国(母の国)の使命」(p.33)を担う。だから「世界の母として、たとえ飢えたとしても世界の国々を保護」(同)しなければならないという。ずいぶんな話である。
エバ国があるならアダム国(父の国)もあるだろう。それが韓国だ。その証拠に半島は男性を表す大陸から突き出している。その形は男性自身を表しているという。
たしかに大陸から朝鮮半島は突き出てはいるが、角度的には元気の尽きた老人のようだ。反日は、彼らにとってバイアグラなのか?
文鮮明いわく、エバはアダムに仕えなくてはならない。だから日本は日韓併合の贖罪として南北朝鮮の統一のために「生きなければならない」(同)。世界中に慰安婦像を建てるようなメチャクチャができるのは、それが宗教行為だからなのだ。
宗教といえば日本も負けてはいない。『金正恩の本心直撃!』で呼び出された金正恩の霊(本人が生きていても霊を呼び出せる、それが大川隆法流である)は、台湾が繁栄している理由を、南にあって「バナナがいっぱいとれる」(p.166)からと言い、父だった金正日を「注射を打てば死ぬでしょう」(p.170)と暗殺したことを認め、「君らの敵は、われわれじゃなくて、税務署だ」(p.180)と、幸福の科学の税金の心配までするのだ。
戦前の朝鮮と日本が同じ起源を持つという日韓同祖論(だから日本は朝鮮を併合していいという屁理屈である)は、日本にも(『韓国人は何処から来たか』)、韓国にも(『日本語の正体 — 倭の大王は百済語で話す』)あり、そのベクトルが真逆になっているのが面白い。前者では日韓は同じ民族が日本と韓国に分かれたといい(そして韓国だけが堕落したのだという)、後者では韓国から日本へと民族が移動したという(だから日本は韓国の亜流で二流)。日韓同祖論者の日韓同祖史観というべき独特の考え方が、この2つのパートを読むと理解できる。そして、そんなトンデモ説を掲げて朝鮮併合を行なった当時の日本の姿が、その向こう側に透けて見えるのだ。
トンデモ本を読むのは、多くの場合、苦行以外の何ものでもない。こういっては申し訳ないが、冗長で退屈で、正直、まったく面白くない作品が多いのだ。だが、と学会の面々がそんなトンデモ本のエッセンスを抽出し、こねくり回すとあら不思議、ゲラゲラ笑いながら読み進むうちに、トンデモ説の持つ視点のユニークさに気が付き、トンデモを生み出した背景を知ることができるのだ。
嫌中・嫌韓本のさらに先には、アジア3国の濃密な関係と隠された史実がある。その端っこを覗き見る、入門書としてぜひ一読をオススメしたい。
(文=コタロー)