サークルクラッシャー列伝 その4~童貞狩り、ネトゲ、過去のトラウマ
◎童貞ばかりの工学部で男遊びは楽勝?
同一のコミュニティで複数の色恋沙汰を起こし、人間関係を崩壊させる「サークルクラッシャー」。前回は、自己肯定感が低いがゆえに、“常に誰かから愛されている状態”を求める「承認欲求型」を紹介した。今回も引き続いて、著者が取材した実在する彼女たちのエピソードを紹介していく。次に紹介するパターンは、「狩猟型」とも呼べるサークルクラッシャーだ。
「彼氏がいたときに、浮気しなかったことはない」と語るのは、関西の女子大生・Aさん。極度の寂しがり屋で、彼氏がいない時間が耐えられないため、その時間を埋める男を常にキープしていた。そんな状態に対し、「私はモテる」という他人への優越感を抱くこともあった。
Aさんが進学したのは工学部。女性比率は極端に低く、キャンパスには男ばかりがウロウロしている。しかも、「工学部は、女性経験が少ない男が多い。ほとんど童貞」(Aさん)という。入学当初から同級生と交際を始めたが、「遊ぶならこの環境は、めっちゃ楽勝だと思った」。
交際していた彼氏は、周囲との関係を気にする性格で、仲良しグループ内でAさんと付き合っていることを大っぴらにしたがらなかった。この状況は、Aさんにとっても願ったり叶ったりである。立て続けに5人と肉体関係を持ち、彼氏と会えない時の暇つぶし、または授業ノートやレポートの写しを頼む要員として、女性経験が乏しい理系の男たちを手玉に取り始めた。ちなみに肉体関係を持った5人以外にも、Aさんに尽くす男たちは複数存在していた。
「アッシー君みたいなもの?」と聞いた筆者に、「そうそう。それです!」と明るい声で即答したAさんは、若いわりに古い言葉を知っているのか、それとも話を合わすコミュニケーション能力に長けているのか。いずれにしても男を小間使いのように使い倒し、なおかつ複数の男との関係が周囲や彼氏にバレることもなく、華の女子大生ライフを謳歌していたという。
そんな“完全犯罪”が崩れたのは、意外な出来事がきっかけだった。Aさんと彼氏が付き合っていることを知らないグループの女性が彼氏にモーションをかけ、それをAさんが「私の男に手を出すな」と咎めたのである。その言動が原因でAさんと彼氏との交際がおおっぴらになると、いたるところでほころびが生まれ、Aさんの所業は白日の下に晒されてしまった。
「自分が遊ぶのはいいけど、彼氏が遊ぶのは許せない」というAさんの理屈は筆者にはよく理解できないが、結局はAさんを止められるのは、Aさんしかいなかったということになる。Aさんによる自滅がなければ、Aさんの“狩猟”はさらに拡大していた可能性すらあるのだ。
◎男5人とグループ通話しているその裏で……
次に紹介するのは、高校生からの5年間、バイト先や通っていたライブハウス、趣味のサークル、ネトゲなど、行く先々でサークルクラッシャー化していたBさん(現在は20代の会社員)。
「もともとモテテク的なものに強い興味があり、女子高生になってお化粧を覚え、チヤホヤされはじめたのを自覚してからは、男が思い通りに動くのが面白くて仕方ありませんでした。モテテクや心理学本で勉強したことを実践すればするほど、男たちの好意が自分に向くことが快感だったんです。まるで、魔法使いになったような気分に浸っていました」(Bさん)
たとえば、バイト先でのこと。三十路のコックから4つ上のチャラ男、同年代のスポーツマン、年下くんといった面々に、次々とアプローチをかけていった。具体的には自分の香水をふりかけたマフラーを貸したり、まかないを食べる時にあーんしてあげたり、「次のシフト◯◯さんのいる日にしようかな」と呟いたり、目が合ったら微笑んだり。文字にすると馬鹿みたいなことばかりだが、当事者の男たちにとっては、心が揺さぶられる経験だったのだろう。
しかし、Bさんは肉体関係どころか、指一つ触れさせることすらしなかった。さらに、「好き」といった直接的な言葉も避け、あくまで好意を匂わす程度に留めていたという。しかし、それでも4人は本気になってしまい、三十路のコックはストーカー化して、mixiで長文の恨み節メッセージを送ってきたのを最後に音信不通。チャラ男とスポーツマンはBさんを取り合う敵対関係になった挙句、職場から姿を消した。友達にからかわれながら初々しく電話で告白をしてきた年下くんも、フラれたショックでバイトを辞めてしまった。4人の若いスタッフを訳もわからず立て続けに失った店長は、首をかしげながら求人を出し続けていたという。
さらに、三十路のコックがストーカー化した際には、それをダシにして男からの同情心を集め、サークルの“姫”の地位を欲しいがままにしていた。「三十路コックがストーカー化した話を趣味サークルの男5人全員に相談し、『怖いから』という口実でSkypeのグループ通話をしている時も、裏では個別にそれぞれとチャットしていました。『全員に相談していると見せて、裏では俺と会話している』みたいな特別感を演出して、気を引いていました」(Bさん)
◎「力」があるなら、それを行使してみたくなるのは当たり前
Bさんは、心理学に興味があるというだけあり、自身の過去について詳細に分析してくれた。
「私の父は家に寄り付かない人で、幼い頃から愛されている実感が一切ありませんでした。そのせいで、誰かに好かれて安心したいという気持ちが、人より強かったように思います。そのうえで、『結局、誰も自分をわかってはくれない』と自己愛に浸っている部分もありました。今なら滑稽だと思いますが、その当時は愛も理解できない子どもで、ただ求められることが愛されることだと思っていました。男を思い通りに動かすことができると思ってからは、ある種の万能感のようなものを得てしまい、肥大化した自尊心で男を惹きつけては壊しの繰り返しでした。今の夫に出会ってから、サークルクラッシュ行為がぴたりと治ったのは、『この人に大切にされる自分でありたい』と思えるようになったからだと思います」(Bさん)
過去にトラウマを抱えたナイーブなBさんを「狩猟型」と呼ぶのは可哀想だと思うだろうか。しかし、Bさんは少なくとも自分が能動的に男を狩りに行ったということを自覚しており、また狩る力があるなら、その力を行使してみたくなるのは当たり前だと思っていた節がある。自己肯定感が低いがゆえに、“常に誰かから愛されている状態”を求める「承認欲求型」と重なる部分もあるが、行為による“結果”に対して確信犯的であることが決定的に異なる点だ。
自分の力に自覚的なサークルクラッシャー。クラッシュさせてしまうとわかっていても、その力を行使することを止めることができず、ついつい男を能動的に狩りに行ってしまうサークルクラッシャーのことを、筆者は「狩猟型」と名付けて、今後も研究していきたいと思う。
次回も引き続き、サークルクラシャーについて取り上げていく。
(宮崎智之)