井筒監督が「在日差別」描いた映画めぐるマスコミの差別的対応を暴露! 電通が土下座、産経は取材ドタキャン

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【本と雑誌のニュースサイトリテラより】
 ヘイトスピーチ対策法が施行されてから2カ月ちょっと。しかし、同法が罰則などは設けない理念法であるためか、ネット上では今も露骨な差別表現が飛び交い、ヘイトデモも頻繁に行われている。

 それどころか、マスコミではむしろ逆の現象が続いている。反差別、反ヘイトの理念をもった映画やテレビが圧力や自主規制によって公開できない、放送できないという現象だ。

 映画監督の井筒和幸氏と、映画プロデューサーの李鳳宇氏が「ローリングストーン日本版」(セブン&アイ出版)2016年8月号のヘイト問題特集で、そんなマスコミの実態を語っている。

 2人は在日差別問題をテーマにした05年の大ヒット映画『パッチギ!』の監督とエグゼクティブプロデューサーとしてタッグを組んだ関係なのだが、改めてこの『パッチギ!』という作品をめぐって、既成のメディアがどれだけ腰が引けた対応を行っていたのかを暴露しているのだ。

 11年前の映画なので、覚えていない人のために、まずはざっくりとあらすじを説明しておく。舞台は1968年の京都。同地の府立東高校と朝鮮高校は反目し合って常日頃からケンカが絶えず、鉄ゲタなどの凶器を用いて殴り合うなどの暴力が横行していた。その背景には、もちろん、日本人による在日コリアンへの差別や、それに対する朝鮮高校の生徒たちの怒りがある。そんななか、ひょんなきっかけで塩谷瞬演じる松山康介が沢尻エリカ演じるリ・キョンジャに一目惚れ。時に二人は国籍の壁によって引き裂かれそうになったりもするが、それでも恋の力をバネに周囲も巻き込みながら相互理解を深めていくという青春映画である。

 2007年にはキャストを一新して続編となる『パッチギ!LOVE&PEACE』が公開。ここでは、舞台が1974年の東京に移り、女優への道を歩み出したリ・キョンジャ(沢尻エリカに代わり、二作目では中村ゆりが演じている)が芸能界における在日差別の壁に苦しんだりと、前作の登場人物たちが大人になってぶち当たる困難が描き出されていた。

 前述の対談では、まずプロデューサーの李氏がテレビCMを打とうとした時に直面したトラブルをこう明かす。

「『パッチギ!』公開の時ってワールドカップの予選をやってたんですよ。で、日本対北朝鮮戦にスポットCMを打とうとしたんです、沢尻エリカ演じるリ・キョンジャが鴨川沿いで『このままずっと私と付き合って結婚したら、あんた朝鮮人になれる?』って言うシーンの。で、CMを作り考査も通ったんですけど、オンエアの1週間ぐらい前に、電通の人とテレビ朝日の部長が訪ねてきて『変えてくれないか』って。でもあの台詞があの映画を象徴している言葉なので『変えられない』って何度も断ったんですが、最後は『自分たちはこのままじゃクビになっちゃう』って言って帰られないんですよ。もう土下座みたいな感じで......参ったなと思って」

 このシーンは、それまでも何となく好き合っているという空気はあったものの、完全な恋仲ではなかった二人が遂にお互いの恋心を理解し、それと同時に、この恋には障壁があるということを理解するシーンだ。確かに、この映画のなかで最も重要なシーンである。ただ、あくまでも画としてはロマンチックなシーンであり、街中の建物が破壊されるパニック映画やゾンビがうごめくホラー映画のCMは何の問題もなく、これがダメというのは、理解しがたいメディアの保守性を象徴するようなエピソードである。

 ただ、メディアのダメさを表すエピソードはこれだけにとどまらない。李氏は続けてこんな思い出を語る。

「それと、監督に名古屋のラジオに出てもらった時の話もすごかった(笑)」
「そのラジオ番組のスタッフの方が、"いやー素晴らしかったですよ、泣きました"って言ってね。"映画の話をして、じゃあこの辺で1曲"っていう流れだったんです。事前にリクエストしていたわけです。もちろん『イムジン河』を。そしたら"『パッチギ!』、素晴らしい!"って言ってたその人が、"いや『イムジン河』は流せないんですよ"って(笑)」
「ちょっと待ってください。これ、流しちゃいけない歌なんかないっていう映画なんだよ。その映画を観て、素晴らしいって言ってくれたのに、今まで語ってきたこと全部、吹っ飛びますよ、って(笑)」

 ここで語られる「イムジン河」は、言うまでもなく、朝鮮歌謡の原曲をザ・フォーク・クルセダーズが日本語に訳して歌い話題となった名曲。北と南で故郷が分断された朝鮮半島の悲しみを歌ったこの曲は、政治的配慮から当時、発売中止および放送自粛の憂き目にあっている。

 映画のなかで主人公は、大友康平演じるラジオ局のディレクターに誘われ、素人参加の歌番組で「イムジン河」を弾き語りすることになるのだが、いよいよ出番という段になってプロデューサーから「これは北朝鮮の歌だ」とストップがかかる。そこで大友康平は「歌っちゃいけない歌なんてないんだ!」と怒鳴って上司であるプロデューサーをボコボコに殴ったうえスタジオから締め出し、放送を強行するという感動的なシーンがあるのだが、これとまったく同じ自粛が、21世紀に入ってからも残り続けていたという、もはや苦笑するしかない話である。結局、映画とは違い、現実ではそのまま放送は自粛となってしまったらしい。

 そして、極めつきは、映画に関して取材を申し込んでおきながら、映画の内容を見て急にドタキャンしてきたメディアまであったということだ。二人はこう語っている。

李「産経新聞なんてインタヴューを申し込んできて、やっぱり無理ですって言ってきて。なぜですか?って聞いたら、上から"うちの社は、強制連行は無かったという方針なので掲載できません"と。思い返すと、そういうことばっかりだったんですよ」
井筒「やっぱりスゴい新聞社でほんとに笑った」

 産経新聞のひどさは井筒監督にして「スゴい」と皮肉を言わせるほど一貫していたものであったわけだが、一連の軋轢から李氏はこんな感想を漏らす。

「結局、メディア側の人たちが最も臆病で、最も何かを変えたくない人たちなんだなっていうのは凄く身に染みてわかりましたね」

 そのようなマスコミの差別意識に関する遅れは、これまで挙げてきたような広告や報道の世界だけではない。芸能界も同様だ。先ほど紹介した通り、続編となる『パッチギ!LOVE&PEACE』では、女優となったリ・キョンジャが徹底してその出自を隠すことを迫られたり、在日であることが分かると一斉にバッシングが起こるという理不尽な状況が描かれる。同対談で井筒監督はこのように語る。

「実際、映画界もテレビ界も多いし、露骨だよ。10年前、『パッチギ!』の時でも、キャンペーンでテレビにたくさん出たけど、控室にいたらプロデューサーが『監督! 映画、すごいっすねぇ』って来てね。『ありがとうございます』言ったら、『僕らも若い時にチョン高のヤツら、殺してやろうかと思いましたよ。まんまですもんね、この映画』って。それ、ただの懐かしさだけで片付けてんのか? って(笑)」

 差別があった過去を振り返り、その反省をこれからの未来につなげようという映画のメッセージがこのプロデューサーには何も伝わっていなかったわけである。

 芸能界における差別意識はひどいものだ。「キネマ旬報」(キネマ旬報社)07年5月15日で井筒監督はこのようにも語っている。

「芸能界というのは、いい加減な社会の縮図ですよ。突飛なことをすれば撥ね除けられ、朝鮮人だと分かるとスポイルされる。力やコネクションを持った人だけが生き残る。これは典型的な日本社会の縮図です。でもキョンジャのような在日の若い子たちは、OLや銀行員にはなれませんから、ホルモン屋で働くか、華やかなことをしたいと思うと芸能界に入るしかない。その芸能界は、何か共同体が生まれるわけではなくて、自分の出自を隠して絶えず孤独に晒される、ゲットーみたいなものなんです。そのことを描きたかった」

 井筒監督のフィルモグラフィーをたどっていくと、初の一般映画にして出世作である『ガキ帝国』にも在日コリアンが登場したりと、『パッチギ!』のみならず、差別があるという現実とその差別を強いられている人々の姿を描こうとしてきたが、彼はその理由を前述「ローリングストーン日本版」の対談でこのように語っている。

「運命というか、宿(しゅく)ですね、これが例えば東京の高級住宅街・成城で生まれたとしたら、宿命じゃなかったでしょうね。ところが、関西には在日の人間って数多くいるから、物心ついた頃から近所に在日の人がおって、ブタの飼育ゴミ集めとかしてたわけよ。何の隔たりもなく、普通に接してた」

 彼が不当な差別を受けている人々に勇気を与える作品をつくり続けているのは、そんな子どもの頃の思い出があったからなのである。

 ところで、『パッチギ!』には、「俺はセックスと暴力が描かれてこそ映画だと思ってる」(「週刊文春」12年6月14日号/文藝春秋)という井筒イズム溢れる突出した暴力描写が多く登場する。

 対立する高校生同士のケンカシーンでは、口いっぱいにビー玉を含ませた状態で顔を殴りつけたり、ボコボコにされてのびてしまった相手に放尿したうえセメントを浴びせかけたり、見ているだけで痛みが伝わってくるような描写が多く登場するわけだが、これにも井筒監督のメッセージが込められている。「オリコン」(オリコン)05年2月7日号で監督はこのように語っている。

「"ケンカしたらあかんで、いいかげんにしときや"って映画なんです。今の日本人は、日本の視点だけでものを見すぎているんじゃないか、アジアの他の国があるから日本がある、人間も自分がいて他者がいて両者があって、それで生きている。それを僕と李鳳宇プロデューサーは伝えたかった」

 しかし、ヘイトスピーチが大手をふって流通している一方で、こうした表現は自主規制によってますます居場所をなくしつつある。ヘイトスピーチ規制法ができても、この国の状況はますます悪化している。
(新田 樹)

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