月9『貴族探偵』の凄まじい気迫を感じた初回、問題は相葉雅紀の「棒プレイボーイぶり」だけ
慢性的な一桁視聴率に苦悩するフジテレビ月9ドラマチームが、起死回生の一打として放つ『貴族探偵』。4月17日の初回放送、平均視聴率は11.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)で、関係者はほっと胸を撫で下ろしたことだろう。突出して高い数字ではないが、爆死枠と呼ばれるようになって久しい月9枠の最近の視聴率は一桁台どころか6~8%をウロウロする状態で、前クールの『突然ですが、明日結婚します』は5.0%という歴代最低視聴率を記録。そんな前作と比べれば、非常に良い結果だといえる。貴族という非現実的な存在を浮き上がらせるセットの装飾には強いこだわりと意気込みを感じ、スタッフの気迫は十分伝わる。
主人公は嵐・相葉雅紀が据えられているが、相葉が画面に登場したのは第一話の開始から10分以上が経過した頃だった。実質、物語の中心で語り部となるのは武井咲が演じる探偵だ。彼女の師匠の名探偵・井川遥(の亡霊……おそらく故人)や、権力にだけ従順なバカ刑事・生瀬勝久がレギュラー出演者であるほか、貴族である相葉の召使役に滝藤賢一(運転手。武道の達人でもある)、松重豊(執事)、中山美穂(メイド)が配されている。
毎回どこかで事件が起き、武井(庶民探偵)と相葉(貴族探偵)が推理対決をする。といっても、相葉は自分で推理をしない、3人の召使たちが謎解きをする仕組みなのだが。事件解決モノ、探偵役が超富裕層、ファンタジックな設定が『富豪刑事』(テレビ朝日系)、『IQ246』(TBS系)、『謎解きはディナーの後で』(フジテレビ系)など様々な過去作を想起させると話題であるが、生瀬のコミカルなバカ刑事ぶりは『トリック』(テレビ朝日系)も彷彿とさせる。
第一話のゲストは木南晴夏、内田朝陽、平山あやなどホリプロ勢で揃えていた。木南と武井といえば、ドロドロ不倫愛をコメディに昇華させた『せいせいするほど愛してる』(TBS系)にて、滝沢秀明の正妻と不倫相手を演じ大いに争ったことも記憶に新しいが、今回は友人関係。木南演じる大富豪のお嬢様の邸宅で殺人事件が起き、貴族探偵が登場して犯人を捜すというわかりやすいストーリーだった。テンポも良く、小ネタがいくつも挟まれて笑いを生む。相葉が主役ではあるものの、出ずっぱりではないため、相葉ファン以外の層も苦ではないだろう。これが、全面的に相葉推しのつくりであったら、視聴率の急降下は免れないところだったかもしれない。なにしろ、本作最大の問題は、相葉の演技だからだ。
もともと演技力の評価が高い役者ではない相葉だが、今回は予告編の段階から恐ろしいほどの棒演技だとファンからさえ心配の声が漏れていた。懸念通り、滑舌の悪さからセリフが聞き取りづらく(たとえば「不可解な事件」というセリフ)、表情や立ち振る舞いが気品を感じさせるわけでもない。しかし見終えてみれば、このドラマだからアリなのだ、と納得させられた。今回は自然な演技をする必要がなく、無表情でも棒台詞でも問題ない。なぜなら浮世離れした貴族というキャラクターだからだ。プレイボーイらしく「美女とのアバンチュール」を愛し女性に優しい貴族探偵だが、等身大の大人の男性ではない年齢不詳のお坊ちゃんであるため、相葉の少年らしくもありおじさんらしくもある存在感に合っているのかもしれない。そしてメイド役の中山美穂もまた見事な棒演技で相殺してくれている。一話完結形式であり、「続きが気になる」仕様ではないため第二話の視聴率がどう出るかは予想しづらいが、大きく数字を下げることはないのではないか。
(犬咲マコト)