男性はセックスの前に自分の心を知るべき!セックス講座から見えた男性の歪みと希望
2月26日、東京都内のバーでイベント「夜のワンポイントレッスン」が開催された。講師は、セックスオタクの男性・かねどーさん。かねどーさん自身がセックスを好きなことはもちろん、これまで100人以上の男女のセックス相談を引き受けてきた。
「夜のワンポイントレッスン」は、アダルトビデオのようにパフォーマンス的なセックステクニックを手に入れたり、特殊なセックスができるようになったりする講座ではない。目標は「安心かつリラックスして、痛くない、気持ちいいセックスができること」「セックス中のマイナスポイント(=ストレス)をゼロに近づけること」だ。
普段のセックスに不満や悩みがある女性には、セックスについて気軽に話せる場があるのは嬉しい。男性にとっても、男性同士でなかなか聞けないセックスのコミュニケーションやメンタル面の悩みを相談できる有意義な場になる、と想像していた。しかし当日、会場に足を運んでみると、予想に反して男性の参加者が少ない。また女性からは質問がどんどん飛んでくるのに対し、男性は聞いているだけの人が多かった。セックスに興味があってもセックスについて真面目に話すのは嫌だ。そんな男性の抵抗感の正体は、いったい何なのだろうか。
射精できればいいのか? 男性の問題意識の低さ
男性A「勉強にはなりましたけど……」
参加者の男性Aさんが、戸惑った様子で答えてくれた。約1時間の講座が終わり、女性たちは講師を囲んで矢継ぎ早に質問している。
「遅漏の男性とのセックスを自分が楽しむにはどうしたらいいか?」
「フェラチオをしている最中は男性とどうコミュニケーションを取ったらいいか?」
具体的なシチュエーションをポンポンと質問できるのは、女性たちが普段からセックスに問題意識を持ち、観察して、疑問や向上心を心の中に溜めていたことの表れだろう。一方、男性たちは講座が終わるとすぐに散り散りになってしまった。煙草を吸いに行く人、お酒を飲み始める人……女性との意識の差がさみしい。
男性A「講座で教わったポイントを、自分が実践できるかというと正直わからないです。『セックス中のストレス』について今まで考えてもいなかった。実践してみたいけど、自分のしてきたセックスが気持ち良いからそれでいいじゃん、という思いもあります。些細なことでも女性が悩んだり困ったりしているということが、意外でした……」
今回、講師のかねどーさんが提案したのは「リラックスできて気持ち良いセックス」だった。リラックスしてセックスをすることのメリットについて、講義中にこんな説明があった。
かねどー「男性、女性の双方がリラックスできていないという状態は、緊張感や警戒心が残っているということです。緊張感や警戒心によって、セックスの気持ち良さに上限が生まれてしまう。自分をさらけ出すことが怖くないリラックス状態を作ることで、セックスの楽しさと気持ち良さを存分に堪能できます」
もちろん緊張感や警戒心を快感に変えることが得意な人や、それによって快感を高めることができる人もいるが、それは一部の人や上級者。パートナーや友達との一般的なセックスでは、素になって楽しむことがお互いの気持ち良さを高めると前置きがあった。
お互いにリラックスするためには、何をするかよりも「何をしないか」が大切。用意されたレジュメには、こんな項目が並んでいた。
×:相手や自分その他について、否定的な言葉が多い
×:自分ばかり話す、相手にばかり話させる
×:初対面の相手にタメ口で話す、アドバイスや説教をする
×:酒を飲ませる
これは、お互いにリラックスして楽しく関わるために控えた方が良いことの一覧だ。セックスじゃなくてコミュニケーションの話じゃん! レジュメを見てそう思ったお客さんもいたかもしれない。しかし、かねどーさんは「セックスの満足度は、始まる前にだいたい決まってしまう」と言う。確かに、これからセックスをする(かもしれない)相手にされたら、心のどこかに不安が残るような行動ばかりだ。セックス後に否定的な言葉をかけられるのでは? 自分ばかり愛撫させられるのでは? 逆に一方的に攻められて断れないのでは? そんなことが脳裏に浮かんだままのセックスが楽しくないのは当然。だけど、それもその場にいた男性たちには受け入れ難いようだった。
セックスを真面目に話すことが許されない男性のつらさ
男性B「会社の同僚男性や、学生時代の男友達とはセックスの悩みについて話したことはない。男同士でセックスについて話すとしたら『あの女とヤッた』とか『こんな変態的なプレイをした』とか『潮を吹かせた』とか、武勇伝的なものが多いかも。『彼女が正常位での挿入は痛いって言うんだけど、どうしたらいいかなあ……』なんて話せないし、別に話さない」
男性同士でセックスの悩み相談をし合っている人もいるかもしれない。でも、Bさんの状況に「わかる」と頷く男性も多いのではないだろうか。男性同士が悩みを話せない理由については、messyの連載「桃山商事の『先生“男らしさ”って本当に必要ですか?』」でも語られている。
清田 からかいや人格テストといった行為は、ある種の“予定調和”を崩す刺激的なコミュニケーションだと思います。そして、「俺はここまで踏み込めるぜ」「俺はこんな予想外の切り返しができるぜ」みたいなやりとりの中で互いに存在証明を得ていく、というのも確かにあることだと思います。
(ハゲが怖いのは自分のせい? ディスり合って相互承認していく男たちのTHE・自縄自縛 より)
これは、男性が「ハゲ」「デブ」などの外見的特徴についてからかい合うことで生まれる自縄自縛現象について、昭和大学准教授の須長史生さんが解説した回だ。男性には、友達同士でディスり合う(=真面目な話をしないようにする)ことで、度胸試しをしたりポジションを上げたりするコミュニケーションの取り方を採用するコミュニティがよく見られるという。「なに真面目な話をしちゃってんの?」という男性コミュニティの空気が怖いという話を、男性から聞いたこともある。悩みを相談できない状況を自分たちで構築してしまっているのだ。つらそうに思えるが、そのつらさにも気が付かないのかもしれない。
また、別の回では男性が自らの欲求を自覚できていないことも指摘されている。元一橋大学非常勤講師の村瀬幸浩さんがゲストの回だ。
村瀬 それを考えるにはまず、「快楽としての性」をどう捉えるかが鍵になると思います。これには2種類あると僕は考えていて、ひとつは身体的なオーガズム、男の場合で言えば射精につながるような“性的快感”(からだの快感)です。そしてもうひとつは、触れ合って、ほっとして、安心して……という心理面で味わう“心的快感”(こころの快感)です。
清田 一般的に「快楽」としてイメージするのは前者ですかね。
村瀬 そうだね。まず100%。特に男子はそちらに囚われている傾向が強いかもしれない。
(「勃起と射精」に拘泥する男の“性欲”と、ニッポンの「性教育」より)
桃山商事の清田さんは、さらに「性欲って本来は幅広くて多様なものなのに、男性はその一部分にすぎない『射精欲求』のみを性欲と認識している。裏を返せば、心的快楽を欲しているときにも、それを自覚できず、つい性的快楽のみを追求してしまう……。そういう問題があるような気がしてきました」と続けている。かねどーさんのセックス講座で提案されていたのは、まさに村瀬さんが言う「心的快感」の向上だった。もっと言えば、心的快感を高めることで性的快感が増す良い連鎖を生み出そうという講座だったのだ。自分の中にある心的快感の存在をつかみきれていないために、男性が講座の内容に納得感を得られなかったならば残念。セックス以前の、自分の心の在り方から考えていく必要があったのかもしれない。
芽生えつつある「男性の連帯」
男性が自分の心について同性と話し合いたい、わかり合いたいと考えたとき、それが叶う場所はまだ少ない。かねどーさんのように積極的に男性の話を聞きたいとアクションを取る人がいても、積極的にそこに乗り込んでいける男性も少ない。しかし、宮城県仙台市に面白い団体がある。「男性の男性による男性を考えるための勉強会を行う、市民団体『Re-Design For Men』」だ。
Re-Design For Menは、仙台市で定期的に男性参加限定の討論会、勉強会をおこなっている。2月25日には男の勉強会「男と暴力」が開かれた。10代から60代まで幅広い世代の男性が、暴力を切り口に「男らしさ」にまつわる問題や自分自身の悩みについて語り合ったそうだ。過去には「男と愚痴」「男と性欲」「男と親」「男とアダルトビデオ」などのテーマが設定されたこともある。からかい文化があるために友達同士では話しにくいと感じている男性が、Re-Design For Menのような場所で自分の心を見付けられるなら、それは素敵なことだと思う。男性が自分の内面について考える機会の増加は、男性自身の幸福にも女性の幸福にもきっとつながっていくはずだ。
今回のセックス講座を通して痛感したのは、男性には「射精やプライドのためのセックスは好きだがコミュニケーションや満足度を求めるセックスには興味がない」という層がある程度いるという事実だった。しかし一方で、かねどーさんやRe-Design For Menのように男性の課題を男性同士でわかち合っていこうと活動を始めている人たちもいる。自分の気持ちや欲求が把握できていないと上限が生まれるのは、セックスの気持ち良さだけではない。恋愛や仕事、家庭、趣味、果ては人生の満足度にも天井ができてしまうのではないだろうか。気持ち良いセックスをしていくため、そして自分の人生を生き抜くために「俺の心」をてらいなく見つめていける男性が増えるよう、これからも応援していきたいと感じた。
(むらたえりか)