みうらじゅん&クドカンまでが安倍政権に危機感!「憲法を変えるとか、戦争できる国になるとか勘弁してほしい」
『みうらじゅんと宮藤官九郎の世界全体会議』(集英社)
【本と雑誌のニュースサイトリテラより】
昨年の夏は国民の理解を得られぬまま安保法案を強行採決、さらにいまでは、争点隠しをしたまま臨んだ参院選で改憲勢力が3分の2を獲得したことにより、着実に改憲への道を歩みつつある安倍政権。
このままでは日本は本当に「戦争ができる国」へと変えられてしまう危機的な状況にあるわけだが、そんななか、「マイブーム」「ゆるキャラ」の生みの親であるみうらじゅんと、自身が監督も務めた『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』も好評だった宮藤官九郎による対談本『みうらじゅんと宮藤官九郎の世界全体会議』(集英社)のなかで、二人が意外な発言を行った。
対談本の大半は、二人の持ち味でもある中学生ノリのエロ話とバカ話で占められており、それはそれでやはり面白いのだが、そんななか「なぜ戦争はなくならないのか?」というトークテーマで話す段になると、両者は急に真面目になり、それぞれこう語り出すのだった。
みうら「最近、俺までが気づいちゃうほど、なんだかミョーに政治が不穏な感じするじゃないですか?」
宮藤「憲法を変えるとか、戦争できる国になるとかならないとか、ちょっと勘弁してほしいなって思います」
その前まで二人は「なぜデリヘルで「チェンジ!」と言えないのか?」や「なぜ男はオッパイが好きなのか?」という議題で語り合っていたのだが、そんな人たちの口から飛び出したとは思えぬ政権批判。しかし、まさしくその通りである。
そして、二人は戦争が決してなくならない理由として、「正義」という言葉、概念の取り扱い方に問題があるのではと指摘する。みうらじゅんは、ボブ・ディランの歌詞を引用しながら、こう語った。
「かつてボブ・ディランが『いつもの朝に』っていう歌の中で言ってましたよ、「君の立場からすれば君は正しいし、僕の立場からすれば僕は正しい」って」
何をもって「正義」とするのか、当然のことながらそれは立場によって変わるし、万人にとっての「正義」など存在しない。加えて二人は、イラク戦争で160人を狙撃した実在のスナイパー、クリス・カイルを主人公にした、2014年公開のクリント・イーストウッド監督作品『アメリカン・スナイパー』を話題にし、「正義」の危うさを語る。
この『アメリカン・スナイパー』では、イラク戦争開始当初はアメリカの正義を信じて疑わなかった兵士たちの間にだんだんと「自分たちのやっていることは正しいのか?」という考えが広がり、クリス・カイル自身も爆弾を持った現地の子どもを射殺せざるを得なかった経験などからPTSDになり、次第に心が壊れていくさまが描かれていた。
みうら「あの映画を観たときにも思ったんだけど、戦争って、こっちにも事情があるけどあっちにも事情があるっていう、そこの食い違いから始まるんでしょ。で、お互いの事情にどうしても折衷案が見いだせないから仕方なく戦闘に突入していっちゃうっていう」
宮藤「誰しも好きこのんで戦争してるわけではないですからね」
(中略)
みうら「だからそのクリス・カイルって人にも、自分が考える何かしらの正しさってものがあって、それに従って相手の軍を狙撃してたわけじゃない?」
宮藤「うーん。まあ、彼の場合には途中からかなり葛藤してましたけど、少なくとも最初から「自分たちは今、悪いことをしている」と思って戦ってる人なんていないですよね。向こうが悪いと思う理由があるから戦うわけで。言い換えたら、自分たちの正義を証明しなきゃいけないから戦争をするっていうか」
みうら「それそれ。その"正義"って言葉がね、クセモノなんじゃないかなって」
(中略)
宮藤「僕が思うにですけど、個人にとっての正義はあっても、万人にとっての共通の正義っていうのは存在しないんじゃないでしょうか」
みうら「だったら食い違いが生まれるのは必然だよね」
ただ、いま、この国を覆っている空気、そして政権の姿勢はそれこそこの「正義」をたてに、どんどん他国に対してヒステリックになっている。二人は、半ば諦念が入り交じらせながら、こう語るのだった。
宮藤「敵か味方の二分法で、グレーゾーンがないっていうか」
みうら「そうそう。だけど、昔はそのグレーゾーンっていうのを話し合いで解決したもんじゃないですか?」
宮藤「そういう話し合いの文化って最近どんどん薄れてきてる感じしますね」
みうら「それぞれの正義っていうのを理解するのはムリだとしても、相手の意見に耳を貸す程度の器の大きさは、みんな持っててもいいと思うけどねぇ」
宮藤「もうちょっとみんな寛容であってもいいんじゃないかって思いますね」
そして、宮藤官九郎はもしも日本が戦争に巻き込まれたら犠牲になるのは誰か? ということまで踏み込んで、こう語っている。
「僕が"戦争"っていう言葉を聞いたときに一番最初に思い浮かべるのって、やっぱり子供のことなんですよね」
「それにもし万が一、戦争が将来起こったときに、僕たちはもう老人になってるから戦場に行くことはないと思いますけど、子供たちの世代が戦わなきゃいけなくなる可能性があるわけじゃないですか」
「いずれ学校の授業で、日本が昔、戦争で負けたっていうのを知ることになるわけじゃないですか。にもかかわらず、今になって再び戦争をやりかねない状況に持っていこうとしてる大人がいるっていうその現実を、戦争を体験した世代がどんどん減っていくなかで、子供たちにどう伝えたらいいんだろうなって」
サブカルの代表のようなみうらやクドカンはこれまで、あらゆる事象に対して「脱力する」「茶化す」という姿勢を貫いており、当然ながら、これまで一切政治的な発言をしたことがない。そんな二人がここまで語るというのは、それだけいま、戦争がリアルに近づいているということでもある。そのことのヤバさを私たちは認識すべきだろう。
(新田 樹)