「ダメよ~、ダメ、ダメ」
日本エレキテル連合のこのフレーズが、新語・流行語大賞に輝いた2014年。流行語にはノミネートされなかったが、どぶろっくも「もしかしてだけど」の歌ネタで小~中学生を中心に大ブレークを果たした。お笑い芸人発の言葉がひとつもノミネートされなかった昨年と比較すると、お笑い芸人が注目された年といえるだろう。
思えば、今年はテレビのバラエティ番組史に残る激動の年だった。それはなんといっても、32年もの長きにわたり続いた『笑っていいとも!』(フジテレビ系)の終了だ。同じく20年以上の長寿番組だった『さんまのSUPERからくりTV』(TBS系)も最終回を迎えた。ある一時代の終わりを象徴するものだろう。
そんな2014年のテレビバラエティを振り返ってみたい。
“天才”バカリズムの躍進
今年のバラエティタレントMVPを挙げるなら、やはりバカリズムではないだろうか。『ウレロ☆未体験少女』(テレビ東京系)で客前一発本番のシットコムに、『リアル脱出ゲームTV』(TBS系)では俳優としてドラマに主演、『伝えてピカッチ』(NHK総合)でキャプテンとしてゲームを楽しみ、『ビットワールド』(Eテレ)では子ども番組で違和感なく活躍し、『アイドリング!!!』(フジテレビ系)でアイドル相手に司会に、『有吉反省会』(日本テレビ系)で反省見届け人として鋭いコメントを連発、『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)では大喜利で“主役”を張り、『OV監督』『オモクリ監督』(同)では映像作品を量産している。単発ながらバナナマンとの冠番組『そんなバカなマン』(同)も好調だ。その上で、テレビ以外にもラジオ『オールナイトニッポンGOLD』(ニッポン放送)のパーソナリティを務めたり、変わらず単独ライブも成功させている。さらに『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)では、なんとゴールデンタイムの連続ドラマの脚本を担当するという離れ業。もちろん、これは第一線で活躍するお笑い芸人として前人未到の快挙だ。
ほんの少し前まで、バカリズムといえば「孤高の天才コント職人」というイメージだったが、いまやテレビ界屈指のマルチタレントへと、瞬く間に可能性を拡げていった。脚本を務めた『素敵な選TAXI』は、過去に戻ることができるタクシーを舞台にしたドラマだ。そのタクシーが過去に戻る時、音もしないし、時空も歪まず、「タイムスリップ感」がない。「タイムスリップ感がないのが、性能がいい証拠」と主人公は言う。確かに、事も無げにスゴいことをやってのけるのが本当の高性能だ。まさに、バカリズムもそうだ。事も無げにジャンルを横断しながら、思いもよらない発想でハイクオリティな作品を作り続けている。まさに「天才」。ついに、時代が天才バカリズムに追いついたのだ。
また、今年はバカリズムの所属するマセキ芸能社の躍進が目立った。看板であるウッチャンナンチャンは、それぞれピンで安定した活躍を見せている。南原清隆は、結果的に『いいとも!』終了の一因となった『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)を率い、内村光良は、コント番組がほとんどない時代にNHKでコント番組『LIFE!』をレギュラー化させた。今後もまさにライフワークのようにシリーズ化されるだろう。ほかにも『イッテQ』や『笑神様は突然に』(日本テレビ系)など、MCを務める番組も好調だ。ナイツも次世代の芸人が集結した『ミレニアムズ』(フジテレビ系)のレギュラーに抜擢され、塙宣之はエース格として存在感を放っている。三四郎の小宮浩信は出川哲朗や狩野英孝を継ぐ「マセキ幼稚園」の系譜として『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)、『ゴッドタン』(テレビ東京系)など、お笑い濃度の濃いバラエティ番組に引っ張りだこ。“新人賞”といっていい活躍だった。
TBSプロデューサー藤井健太郎の逆襲
『クイズ☆タレント名鑑』(TBS系)で悪ふざけの限りを尽くし、テレビっ子たちに熱烈に支持をされながらも、2012年にあえなく打ち切りの誹りを受けた、「今」のテレビを代表するプロデューサー・演出家である藤井健太郎。彼の逆襲の始まりは、昨年末に放送された『クイズ☆正解は一年後』だった。1年前に回答パートを収録し、その1年後に生放送で答え合わせをするという、テレビ制作の常識を破った本作は強烈な印象を与えた(今年も12月30日に放送予定)。
並行して、それより少し前から始まった『Kiss My Fake』では、ジャニーズアイドル・Kis-My-Ft2を隠れ蓑に悪意をまぶしていた。だが、こちらは3月で終了。その直後に始まったのが、『水曜日のダウンタウン』だった。ダウンタウンと藤井の組み合わせは否が応でも期待が膨らんだ。開始当初こそ探り探りだったものの、「ロメロスペシャル 相手の協力なくして成立しない」説、「勝俣州和のファン0人」説など徐々に藤井色が濃くなっていくと、ダウンタウンもそれに呼応。悪意にツッコみながら、逆に悪意を増幅させるというダウンタウンしかできない芸当を見せ番組がスイングし続けている。今年は、後述する『いいとも』グランドフィナーレなど特別番組に強烈なインパクトを与えた番組が多かったが、レギュラー番組として最も安定したクオリティと爆発的な面白さを両立させていたのは、間違いなくこの番組だろう。
さらに、単発で放送された『クイズ☆アナタの記憶』もまた、『タレント名鑑』イズムを引き継ぐ渾身の作品だった。オードリーの春日俊彰の実家を丹念に探索し、本人も忘れているであろうこと(『ドラゴンクエスト』の「ゆうしゃ」の名前や林間学校の班名など)をクイズとして出題したり、高橋ジョージに第何章の「ロード」かイントロクイズを出題したり、ビッグダディに自分の子どもの名前を当てさせたり、いしだ壱成にドラマ『未成年』の再現として手錠をはめさせたりと、やりたい放題。
よくお笑いには、対象への愛が不可欠だといわれる。しかし、藤井が対象へ向けるのは悪意だ。一方で、面白い現象には愛を惜しまない。対象ではなく、現象こそに偏愛を捧げているのだ。
『笑っていいとも!』最終回
やはり今年もっとも印象的な番組といえば、32年もの歴史に終止符を打った『笑っていいとも!』だろう。フジテレビの最終回、あるいはテレビの葬式。『いいとも』の「グランドフィナーレ」の光景を見て、そんなふうに形容する人もいた。確かに、「ネットが荒れる!」という松本人志の発言が引き金になって実現したタモリ、明石家さんま、笑福亭鶴瓶、とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、爆笑問題、ナインティナインというお笑いのレジェンドたちが同じ画面、同じ舞台にそろうという、ありえない“奇跡”のような瞬間にそんな連想をしてしまうのは、無理からぬことかもしれない。昨年10月に『いいとも』の終了が発表されると、その後の約半年間、とんねるずが前代未聞の不定期レギュラーになったり、テレフォンショッキングに現役の首相が登場したりと、テレビの持つ、なんでもありな雰囲気を漂わせたお祭り騒ぎに突入した。そして、それが結実したかのようなグランドフィナーレだった。そんなレジェンドたちがそろった現場を仕切ったのが、平成バラエティの申し子ともいえるアイドルであるSMAPの中居正広だったのも象徴的だ。彼は最後の挨拶で「バラエティって、非常に残酷なものだなとも思います」と涙ながらにゴールのないバラエティのツラさを訴えた。
そのSMAPがメインMCを務めたのが、今年のフジテレビ『27時間テレビ』。その名も『武器はテレビ。』だった。いみじくも、オープニングはSMAPの生前葬。一度何かに終止符を打って、生き直すかのように27時間を駆け抜けた。『いいとも』で「なんで終わるんですか……」とだだっ子のように泣きじゃくった香取慎吾は、『27時間テレビ』の最後、「テレビのウソが大好きです」と笑った。まさに、この2つの大型特番は、幸福な「テレビのウソ」を作り上げてきた80年代の『オレたちひょうきん族』以降続く、フジテレビ的スターユニット型バラエティの集大成だった。
2014年は『6人の村人!全員集合』(TBS系)でも、志村けん、内村光良、三村マサカズ、岡村隆史、日村勇紀、田村淳というウソのような共演が実現した(前述の藤井健太郎も演出で参加)。「何かが起こりそう」な「今」を映すのが「テレビ」だ。その「何か」は間違いなく起こった。その最たるものを見せつけたのが、「今」にこだわり続けた『いいとも』だったのだ。『いいとも』「グランドフィナーレ」はテレビの葬式なんかじゃない。新たな時代の到来を予感させる、「今」のテレビの誕生祭だ。
だからこそ、最後は、タモリのセリフは「明日もまた見てくれるかな?」だったのだ。
総括
『いいとも』の終了が象徴する、テレビ史の転換期と言っても過言でない年だった2014年。『ひょうきん族』『夢で逢えたら』などフジテレビ伝統のお笑いユニット番組として『ミレニアムズ』がスタートした。オードリー、ナイツ、流れ星、ウーマンラッシュアワー、山里亮太と、これまでの番組に比べるとキャリアも知名度もすでに高いメンバーだ。それは、現在の若手高齢化の状況を反映しているといえるだろう。この世代のエース格であるオードリーは、単発の冠番組『とんぱちオードリー』(フジテレビ系)で漫才や春日の体を張った企画、そして中学生とのロケ企画(と思わせてのフェイク。つまり全編コント!)と、お笑い純度100%のオードリーを見せつけた。いよいよ胸を張りながらゆっくりとテレビの中心に歩み寄ってきたオードリーたち。新時代到来の息吹は静かに、だが、確実に芽生えている。
(文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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